使用者を除く

朧谷ハヤミの仲間が全滅しかけたとき、魔王グラナドが聖角笛を奪った。

《大治癒の角笛》

使用時、半径三十メートルの全生命を完全回復します。

使用者を除く。

「これで俺だけ全快だ!」

グラナドは説明の二行目を読まず、角笛を吹いた。

白い波が戦場を走る。

倒れていた攻略者のHPが満タンになり、負傷した魔物も起き上がる。グラナドのHPだけは一のまま。

魔王の顔が引きつる。

「なぜ治らない!」

ハヤミは立ち上がり、剣を構えない。回復した魔物たちも、すぐには攻撃してこなかった。彼らはグラナドの命令で瀕死のまま戦わされていた。完全回復と同時に、逃走できるだけの力を得た。

「全軍、奴らを殺せ!」

魔物は動かない。角笛の回復は状態異常《服従傷》まで治していた。

グラナドは角笛をもう一度吹こうとする。一回制限はない。だが何度使っても、自分以外が元気になるだけだ。

ハヤミが近づく。

「誰かを治す道具を、一人だけ助かる道具だと思ったんだな」

魔王は角笛を投げ捨て、素手で襲いかかる。

元部下の魔物たちが間へ入った。攻撃するのではなく、グラナドを取り押さえる。ハヤミたちも加わり、HP一を削らず拘束した。

角笛は戦場の中央で鳴り続け、味方も敵も区別なく傷を消していく。

《大治癒の角笛を使用》

《回復対象:使用者グラナドを除く全生命》

元魔物たちは角笛をハヤミへ渡そうとしなかった。誰か一人が所有すれば、また自分だけを除外した回復を命令に使われるかもしれない。

戦場の中央へ固定し、誰でも吹けるようにする。

グラナドは完全回復した者たちに囲まれながら、傷一つ増やされず連行された。殺されなかったことを慈悲と呼ぼうとしたが、元部下は首を振る。

「あなたを治せない道具だから、生きたまま責任を取らせられた」

角笛の台座には《吹く者だけは治らない》と大書された。小さな但し書きへ戻さないためだ。

《魔王討伐を中止――敗者は回復から除外された一人ではなく、全員が治れば自分だけを守る軍は残らないと知らなかった使用者です》