保留ではなく、いいえ
朋佳が別れた相手から届いたメッセージは、二件とも優しかった。
〈久しぶり。今度ごはんでもどう?〉
〈将来のことも、前よりは考えられる気がする〉
「前よりは」という四文字に、朋佳は三日間つかまっていた。相手のアイコンは二年前と同じ海の写真で、その変わらなさまで誠実さのように見えた。
二年前、相手は関係に名前をつけることを嫌がった。朋佳も二十七歳の自分なら待てると思っていた。けれど二十九歳になった今、また会えば期待してしまう。それでも断れば、この先誰にも選ばれないのではないかという不安が、夜ごと大きくなった。
会う、会わない。返信欄に二つの文章を作った。
〈会いたい〉
〈もう会わない〉
どちらも送れなかった。
締切などないはずなのに、日付が変わるたび、自分の価値が一日ずつ下がる気がした。焦りの正体が相手への未練なのか、独身でいる怖さなのか、朋佳には区別できなかった。
四日目の夜、朋佳は電話をかけた。
「一つだけ聞きたい。私と、もう一度きちんと付き合いたい?」
沈黙のあと、相手は言った。
「会ってから考えちゃだめかな。今すぐ決めるのは重いよ」
以前なら、「そうだよね」と笑っていた。保留でも、可能性がゼロでないほうを選んだ。
朋佳は窓ガラスに映る自分を見た。会わなければ、今夜からまた一人だ。会えば、誰かがいるようでいない時間に戻るかもしれない。どちらも怖かった。
「じゃあ、会わない」
声は思ったより震えなかった。
相手は驚き、少し怒り、最後に「後悔しない?」と尋ねた。
「するかもしれない」と朋佳は答えた。「でも、その後悔は私が持つ」
通話を終えると、部屋は静かだった。急に立派な人間になったわけではない。明日の夜には電話したことを悔やみ、メッセージを読み返すかもしれない。
朋佳は二件のメッセージを削除せず、アーカイブへ移した。なかったことにすれば、また孤独だけを理由に戻ってしまいそうだった。
保留ではない「いいえ」を、自分で言った夜として残す。その選択が正しかったかではなく、寂しさを含めて自分の返事だったと忘れないために。