保険金を受け取るのは誰
婚約披露舞踏会の最中、飾り塔の一角が燃えた。
火が消えるや、ゼルベルト子爵は煤だらけのレシェルナ・ミュラージュを指差した。
「高額な保険金目当てに放火したのは彼女だ。金に汚い悪女との婚約を破棄する」
客たちは火事より早く噂を広げた。装飾を手配したのがレシェルナだったため、動機も機会もあるという。
レシェルナは燃え移る幕の下から子どもの楽師を引き出し、袖を焦がしていた。ゼルベルトは安全な噴水脇から彼女を指し、救助には一歩も動かなかった。それでも豪奢な飾り塔の設計者というだけで、炎を起こした女にされる。
保険加入を強く勧めたのはゼルベルトだった。受取条件を読もうとすると、『花嫁が金勘定をするな』と契約を取り上げた。今、その契約を最も読ませたくない者が誰なのか、彼の早口が教えていた。
彼女は焼けた羽飾りを払い、静かに尋ねた。
「保険金の受取人は、どなたですか」
「共同の婚礼費だ。君にも利益がある」
「契約第十条を確認しましょう」
保険監督官ロヒールが、舞踏会保険を組み込んだ婚約契約を開いた。第十条は、請求者と受取人を一人に固定し、請求した瞬間に名を浮かべる。
黒い頁に、金文字が現れた。
『請求者兼受取人、ゼルベルト。火災発生の二分前に請求受理』
広間の視線がゆっくりと彼へ移る。
しかも請求額は装飾費の三倍。レシェルナが救い出した楽師の治療費は、契約のどこにも入っていなかった。火傷した彼女より、無傷のゼルベルトだけが得をする仕組みだった。
「先に備えただけだ!」
「火が起きる二分前に、起きた火災を請求なさったのですね」
ゼルベルトは咳き込み、婚約を続ければ保険金を折半すると持ちかけた。
レシェルナは焦げた指輪を外す。
「わたくしが欲しいのは半分の保険金ではなく、全部の自由です」
指輪を保険契約の上へ置き、元婚約者に背を向けた。ロヒールは煙のない出口で手を差し出している。レシェルナは焼け跡を振り返らず、その手を取った。