修理屋に置かれた英雄剣
鍛冶修理屋《燐鉄》へ、勇者レグナードが折れた聖剣を投げ込んだ。
「昨日お前が研いだから折れた。無償で直せ。代わりに、お前の店は勇者団の所有とする」
刃先が職人トルマの足元へ滑る。
「昨日は刃こぼれを整えただけです」
「口答えするな。私が魔王を倒した英雄だぞ。鍛冶師一人消えても、誰も気にしない」
レグナードは店内の客へ聞かせるように笑った。
「修理事故票へ、破損時の状況をお願いします」
トルマが紙を置くと、勇者は〈本日、鞘から抜いた瞬間に折れた。戦闘使用なし〉と書き、勇者印を押した。
「これが王国で最も信用される署名だ」
トルマは折れた刃を炉へ入れず、柄頭の白石を軽く叩いた。
聖剣が持ち主の声で語り始める。
『降伏した魔獣など、討伐数に数えればよい。証人の村人も斬れ』
店内から息をのむ音がした。
英雄武器は最後の強打を記録する。折れた原因は鞘ではない。刃に残る光景には、武器を捨てて跪く角人の村長と、それを斬りつけるレグナードが映っていた。
次に聖剣は、王国の救援倉庫を封じる鉄鎖を断つ。
『食糧は売れば金になる。盗賊の仕業にしろ』
「止めろ!」
レグナードが柄をつかむが、白石は彼の勇者印を認識し、記録をさらに鮮明にした。
「偽造魔法だ。鍛冶師が私を陥れた!」
「事故票では『戦闘使用なし』と署名されています」
トルマは紙を掲げた。
「剣の記録が偽物でも、倉庫の封印を切った傷と、この刃の欠け方は一致します」
入口で鎧が鳴った。王国騎士団長と、救援を待っていた角人の使節が立っている。聖剣は王都工房の監査石へ常時つながっており、修理台で再生された記録は同時に送られていた。
角人の使節はトルマへだけ頭を下げた。修理台に残る英雄剣より、その無言の礼のほうがずっと重かった。
レグナードは客たちへ命じた。
「英雄を守れ! こいつを捕らえた者には勲章を――」
誰一人動かなかった。
騎士団長が勇者印付き事故票を受け取り、王命書を開いた。
「レグナードの勇者称号剥奪、および虐殺・救援物資横領容疑による逮捕命令を読み上げる」