傘の骨の空洞
豪雨の夜、地方裁判所の評議室で証拠保管庫の鍵がなくなった。書記官の傘木は、翌朝の公判に備えて鍵を長机へ置き、三人の関係者に封印確認を求めた。落雷で照明が消え、非常灯が点くまで十二秒。鍵は消え、評議室の扉は内側から施錠されたままだった。
容疑者は廷吏の押切、検察事務官の時庭、弁護人の守随。保管庫には、三人のいずれかが改竄した疑いのある録音媒体がある。全員の鞄と衣服を検査しても鍵は出ない。壁の傘立てには三本の長傘があり、押切だけが自分の傘を手元へ持ってきていた。
雷鳴の間も三人は机の周囲から離れておらず、非常灯には輪郭が映っていた。時庭は守随の書類筒を疑い、守随は押切の腰袋を開けさせた。押切は自分から傘まで差し出したものの、布を広げて見せただけで先端には触れさせなかった。私はその態度を証拠にせず、傘が今夜の雨を知っているかを確かめた。
手掛かりは三つだけだった。第一に、押切は外から来たと言うのに、その傘の布は完全に乾いていた。第二に、石突きのねじ山には新しい傷があり、先端が指で簡単に外れた。第三に、傘を逆さにした時だけ、親骨の空洞から鍵輪が触れる細い音がした。
押切は「古い傘だから、中で金具が緩んでいる」と言った。しかし他の二本には同じ音がなく、彼の傘だけ石突きの内径が鍵の最大幅より二ミリ広い。
私は石突きを外し、傘を傾けた。証拠保管庫の鍵が柄の方から滑り落ちた。「停電中、押切さんは石突きを外した乾いた予備傘へ鍵を入れ、先端を締め直した。雨を通っていない布は傘を今夜使っていない証拠、傷は開閉の跡、逆さにした時だけ鳴る音は空洞内の金属を示す。鍵は持ち物検査を受けた。けれど傘として見られ、容器として開かれなかったのです」押切さんは傘を差して来たのではなく、空の筒として持ち込んだのです。濡れていない布はその準備を、先端の傷は開け閉めを、音は中身を示す。十二秒の暗闇で必要だったのは、鍵を落としてねじを締める二動作だけでした。