傷跡の勝者
決闘場の砂には、二人分の血が円を描いていた。
フェルドナの剣は折れ、対するゼグリスは無傷に近い。石柱へ縛られたテアラを救うには、夜鐘までに勝たなければならない。負ければ彼女は反逆者として火へ投げられる。
フェルドナは折れた刃へ唇を当て、傷写しの悪魔を呼んだ。
契約は、悪魔から完璧な一技を借りるたび、相手と「身体に刻まれた印」を一つ交換するというもの。傷、痣、欠損、刺青。何が選ばれるかは悪魔次第だった。
一技目。ゼグリスの突きを紙一重でかわし、肩を切る。
フェルドナの左眉にあった幼い火傷が消え、代わりにゼグリスの喉の三日月傷が浮かんだ。相手の眉には、フェルドナの火傷が移る。
二技目。剣の柄で膝を砕く。
フェルドナの右手の鍛錬だこが消え、ゼグリスの欠けた耳が自分の頭へ移った。観衆が息を呑む。
「やめろ」とテアラが叫ぶ。「そいつの印は、軍が本人を見分ける証だ」
ゼグリスは立ち上がり、笑った。
「続けろ。勝つころには、おまえが私になる」
三技目。腹へ浅い傷を入れる。黒い狼の刺青がフェルドナの胸へ移り、彼の古い矢傷がゼグリスへ渡った。
四技目で、濁った右目が交換された。視界の半分が白く曇る。五技目では、鼻梁の折れた形まで変わった。
二人の姿は少しずつ入れ替わっていく。
夜鐘が鳴り始める。ゼグリスがテアラへ短剣を投げた。
フェルドナは最後の技を借りた。
折れた刃で短剣を弾き、そのまま相手の胸へ踏み込む。悪魔の一閃が心臓を貫いた。
同時に、最大の印が交換された。
ゼグリスの顔を縦断する古い裂傷が、皮膚だけでなく骨格を引き寄せた。フェルドナの頬が歪み、顎が太くなり、倒れた男の顔には逆に彼の柔らかな輪郭が現れる。
勝者が立ち、敗者が倒れた。
衛兵たちは裂傷、狼の刺青、欠けた耳、濁った目を見た。
「ゼグリスが勝った!」
フェルドナは違うと叫んだ。だが喉に移った傷が声まで相手に似せていた。衛兵が彼を押さえ、テアラを火刑柱から解放する。
彼女は倒れた死体へ駆け寄った。フェルドナの顔をしたゼグリスの亡骸を抱き、名を呼んで泣いた。
本物のフェルドナは勝者として自由になった。望みどおりテアラも救われた。
しかし決闘場を出るとき、磨かれた盾に映ったのは、彼が殺した男の顔だった。悪魔がその顔の口を使って囁く。
――勝者の名は、傷跡の多い方に与えられる。
門番は敬礼し、彼をゼグリスと呼んだ。フェルドナという名は、テアラの腕の中の死体とともに、夜の火へ運ばれていった。