六歳差の最終ホーム
二十九歳の志緒は、二十三歳の玲司から届くはずの《着いた》を待っていた。
会社の後輩だった玲司は、転職してからも毎週金曜に連絡をくれた。新しい店の写真、失敗した料理、帰宅途中の月。内容は小さくても、通知が来ない金曜だけは夜が長かった。今夜は「ちゃんと返事を聞きたい」と言われている。好きなのに言えない理由は、六歳という数字だった。周囲に「面倒を見ているだけ」と笑われるたび、二人の間にあるものまで年齢で説明される気がした。玲司が三十になる頃、自分は三十六。今は平気でも、いつか彼が同年代の人を選びたくなる気がした。そのとき傷つく自分より、若い時間を使わせたと責める自分の方が怖かった。
二十三時三十五分、最終ホームに玲司が現れた。スマートフォンの充電が切れ、連絡できなかったらしい。
「待った?」
「年下だからって、時間にルーズすぎ」
「それ、年齢関係ないですよね」
「あるよ。若いから」
終電まで四分。向かいのホームはもう消灯し、階段には清掃員が立っている。話を終えない限り、どこへも逃げられない。
「六年後に後悔するかもしれない」
「志緒さんもするかもしれない」
「私は大人だから」
「大人なら、俺の後悔まで先回りしないでください」
敬語なのに、生意気で、正しい。玲司は志緒が年上だから好きなのではなく、年上でも好きなのだと何度も言った。聞かなかったことにしていたのは志緒の方だった。志緒は笑いそうになって下を向いた。
「若いから、分からないんだよ」
「じゃあ、分かるまで会ってください」
列車のライトが近づく。これに乗れば、答えはまた一週間延ばせる。
志緒は、同じ逃げ口上をもう一度使うのをやめた。
「若いから怖いんじゃない。私が、なくすのが怖いだけ」
扉が開いた。玲司は乗らず、志緒も動かなかった。
列車が去ったあと、志緒は片耳のイヤホンを外して玲司へ渡した。タクシー乗り場の待ち時間は四十分。二人で聴く曲を選び、次の金曜の予定をカレンダーへ入れた。