写真の外にいた人

「写真には、写っているものしか残らないよ」

坂巻杏子は、結婚式のカメラマンをしている白井湊生に何度もそう言われた。見切れた人も、言いそびれた言葉も、あとから画像へ足すことはできない。

共通の友人の披露宴で、湊生は仕事、杏子は招待客だった。二人が並ぶたび「次はそっち」と笑われ、杏子はそのたび一歩外へ逃げた。湊生も追わず、代わりに杏子の空いた席や、置き忘れたグラスばかり写真へ残した。そこに本人がいないことが、かえって特別に見えるのを杏子だけは知っていた。冗談に乗れば、長い友人関係へ本気が混ざるのが怖かった。

披露宴後、杏子は親友へ送るつもりで、集合写真を添えた。

《湊生、また写真の外にいる》

《私の隣だけ空けて撮るくせに、自分は入ってこない》

《次に撮るなら、友達の集合写真じゃなくて二人がいい》

送信先は湊生だった。

既読がついた直後、会場の照明が落ちる。湊生から返信はない。杏子が逃げるようにクロークへ向かうと、背後からシャッター音がした。

振り返ると、湊生がカメラを構えている。

「勝手に撮らないで」

「今のは確認用」

彼は三脚を立て、セルフタイマーを十秒に設定した。杏子の隣へ立ち、いつものように肩一つ分を空ける。数字が減っていく。

三秒前、湊生はその隙間へ手を差し出した。

杏子が握ると、彼は指を絡め、さらに半歩近づく。フラッシュが光っても離さない。画面に映った二人は、もう集合写真の端ではなかった。

湊生は写真のファイル名を《友人》から《杏子と湊生_01》へ変える。次の撮影予定として、来週の海辺、翌月の紅葉、冬のイルミネーションをカレンダーへ入れた。どの予定にも撮影依頼の番号はなく、同行者だけが《杏子》になっていた。

「モデル料、高いよ」

「一生分でも払う」

言葉は大げさなのに、彼は告白とは言わなかった。代わりに杏子のバッグへ予備のカメラストラップを入れ、つないだ手をそのままに出口へ向かう。

写真には写っているものしか残らない。

だから二人は、写る瞬間だけでなく、その先の予定にも並んで残ることにした。