処刑迷宮が門を開けた

「魔力ゼロなら、一階の鼠にも負けるだろう」

迷宮伯の嘲笑とともに、真壁玲司の背後で鉄門が閉じた。

この国では死刑囚を迷宮へ放り込み、その最期を水晶映像で賭けの対象にする。

玲司の罪は、転移者であること。

迷宮伯は「異邦の知識を盗もうとした」と言ったが、実際には玲司が地下から聞こえる呻き声に気づいたからだった。

壁の水晶眼が彼を追う。

王都の酒場や貴族邸では、何分生きるか賭けが始まっている。

曲がり角から、鎧を着た処刑鬼が現れた。過去の挑戦者を三百人殺した階層主だ。

玲司の足元に淡い文字が灯る。

《迷宮同調》

一つの迷宮と感覚を重ね、その意思を一度だけ表へ出す。

壁に手をつくと、冷たい石の奥から無数の声が流れ込んだ。

殺したいのではない。

痛い。抜いてくれ。

迷宮は生きた大地へ魔杭を打ち込み、無理やり怪物を産ませる処刑装置に改造されていた。

玲司は目を閉じ、能力を使った。

迷宮が叫んだ。

地上まで届く轟音とともに、廊下の壁が脈打つ。処刑鬼の鎧がほどけ、中から囚われていた老騎士が転がり出た。魔杭が各階から自力で抜け、黒い煙となって消える。

水晶眼には、迷宮自身の記憶が映った。

迷宮伯が囚人を怪物へ加工する場面。賭博利益を王族へ渡す場面。脱出者を秘密裏に殺す場面。

最深部にいた災厄竜が咆哮する。

しかし戦いは始まらなかった。

迷宮の床が大きく開き、竜を拘束していた杭だけを吐き出す。自由になった竜は玲司を一瞥すると、天井を破らず、迷宮が開けた巨大な門から静かに外へ出ていった。

地上の観覧水晶が次々と割れる。

最後に残った王城の主画面へ、文字が浮かんだ。

《迷宮管理者の選任を要請》

候補欄には玲司の名だけがある。

鉄門は内側から開いた。

外では討伐隊と迷宮伯が待っていたが、武器を構える者はいない。

王国迷宮局の老総監が最前列で帽子を脱ぎ、立ったまま一礼した。

その背後で、処刑場だった入口の看板が自ら裏返る。

新しい文字は、玲司を囚人ではなく「迷宮代表」と記していた。