出席番号のない席

学校の中で人の名を呼ぶと、呼ばれた人の寿命が一分減る。出席確認は一日五人まで、残りは番号で済ませる。ただし三十登校日続けて名を呼ばれなかった生徒は、在籍簿から自動的に消える。

臨時教員の井草基成が二年三組を受け持ったとき、窓際の三十二番だけが空席だった。鳥越澄葉。登校していない二十九日間、前任者は一度も名を呼んでいない。

「明日で消えます」

教頭は出席簿の赤い線を指した。

「本人が来ないなら、寿命を節約したほうがいい。消えれば欠席数もゼロになる」

基成は朝の点呼で、誕生日、係活動、前日の忘れ物を基準に四人を選んだ。生徒たちは自分が呼ばれる日を手帳につけ、名前の一分を家へ持ち帰るように大切にしていた。呼ばれた日は、黒板横の小瓶から青い砂を一粒もらえた。五人目に空席の名を呼んだ。

「鳥越澄葉」

返事はない。机の上の寿命灯だけが一分、青く点滅した。在籍簿の赤線が消え、三十日の数え直しが始まった。

翌日も、その翌日も基成は呼んだ。教室では、なぜ来ない者に一分を使うのかと不満が出た。名前を呼ばれる順番は、誕生日の歌より貴重だった。

基成は答えず、空席へプリントを一枚ずつ置いた。風で飛ばないよう、白いチョークを重しにした。

二十日目、机の中から答案が出てきた。授業中は空だったはずなのに、全問解かれ、余白に「聞こえています」と書いてある。採点して返すと、翌朝には赤丸だけ切り抜かれていた。机の中には濡れた紙の匂いが残った。

二十九日目の放課後、基成が最後のプリントを置くと、背後から声がした。

「井草基成先生」

胸の寿命灯が一分だけ点滅した。振り向いても誰もいない。だが空席の椅子が少し引かれ、床に濡れた靴跡が二つあった。

三十日目、鳥越澄葉は登校した。制服は乾いており、何も説明せず「三十二番」と返事をした。基成も名を呼ばず、番号で出席をつけた。

その日の机の中には、二十九本の短いチョークと一本だけ長いチョークが並んでいた。長い一本の側面に、基成の名が針で刻まれ、先端には一分ぶんだけ青い粉が付いていた。