十三本目のボルト
栃内研人は、建設現場で「十三本目」と呼ばれていた。
十二本を検査して合格でも、箱の隅や底からもう一本抜き取る。最初の十二本だけ良品を並べる納入偽装を、研修先で見たことがあった。現場主任の小伏は、その慎重さを仕事の遅さだと責めた。
「図面しか読めない技術屋は、現場じゃ役に立たない」
新しい歩道橋の組み立てで、研人は接合ボルトの出荷証明に違和感を覚えた。
証明書の強度区分は正しい。だが、箱の内側に付いた油の色が、指定メーカーのものと違う。ねじ山の角もわずかに丸く、刻印だけを後から打ち直したように見えた。
研人は十三本目を抜き、試験へ回した。
小伏はその依頼を取り消し、試験所へ送る予定だった袋を資材置場へ戻した。研人は取消履歴と封印番号を記録した。
「開通式は明後日だ。一本の油で工事を止めるな」
翌日、発注者の阿久津が現場を視察した。
小伏は完成率を説明し、研人について「判断が遅く、工程を乱す若手」と付け加えた。
研人は何も言わず、携帯型の引張試験器を用意した。
正式な試験所から返送が間に合わない場合に備え、発注者立会いなら簡易試験を行える規程があった。
小伏が選んだ一本は規定値を超えた。
二本目も耐えた。
「ほら見ろ」
三本目。研人が最初に抜いた、十三本目だった。
圧力表示が規定値の六割に達したところで、乾いた音を立てて破断した。
阿久津が箱の二次元コードを読む。
画面には指定メーカーではなく、すでに認証を停止された別会社の製造番号が出た。証明書だけが差し替えられている。
小伏は納入業者のせいだと言った。
研人は受入記録を開く。箱を検収した電子署名は小伏のものだった。
阿久津は阿久津は同じロットを使った全箇所の封鎖を命じ、開通式を中止した。小伏が持っていた現場責任者印も、その場で回収された。
そして本社へ電話をつなぐ。
「工程より先に、安全を見た者が一人います」
通話を終えると、現場の検査権限を更新した。
再開条件の承認者には、栃内研人だけが登録された。