南瓜の丸い相談

 薬袋いぶきが学校から帰ると、大家の仁平が玄関前で南瓜を抱えていた。

「半分にしたいが、包丁が入らん」

「私に頼むことですか」

「若い力を信じてる」

 いぶきは高校のバスケットボール部で、前日に試合のメンバーから外されたばかりだった。若い力、という言葉が少しだけ胸に刺さった。

 二人で仁平の台所へ行き、南瓜を電子レンジで温めてから切った。橙色の断面が現れ、種の周りから青い甘さの匂いがする。

「煮物?」

「毎年それで飽きた。今日は潰す」

 茹でた南瓜を粗く潰し、炒めた玉葱と混ぜる。中へ小さく切ったチーズを隠し、平たい円にして小麦粉をまぶした。

「きれいに丸くならない」

「ボールと違って、落としても反則じゃない」

 仁平の言葉に、いぶきは思わず笑った。

 フライパンにバターを溶かし、南瓜の円盤を並べる。焼けるにつれ、表面に薄い焦げ目がつき、甘い匂いへバターの香ばしさが重なった。

 二人は台所の丸椅子で、熱い南瓜餅を割った。中からチーズがゆっくり伸びる。

「試合、出られなかったんだって?」

「母から聞いたんですか」

「壁が薄い」

「最低」

「泣く声は聞こえなかった」

「泣いてません」

「なら、腹が減るだろ」

 いぶきは一口かじった。外側はかりっとし、中はねっとり甘い。チーズの塩気が、南瓜の味を強くした。冷たい牛乳を飲むと、口の中の熱がちょうどよくほどけた。

「ベンチにいるの、意味ない気がして」

「今日の私は包丁を入れられなかった」

 仁平は自分の不格好な一枚を持ち上げた。

「でも南瓜は食べられた。手を出せない日にも、席はある」

 翌日の練習で何かが変わるわけではない。それでも、ベンチから見えるものを一つくらい探してみようと、いぶきは思った。

 帰りに残りを二つ包んでもらう。

「母の分」

「一つは自分で食う顔だ」

「壁が薄いからって、顔まで読まないで」

 廊下へ出ると、紙包みが掌に温かかった。バターと南瓜の甘い香りが制服へ移り、冷えた夕方の階段を、丸くやわらかく満たしていた。