口紅をつけた証人

 神余凛音は、恋人の梧堂岳史の部屋で決定的な証拠を見つけた。

 白いシャツの襟についた赤い口紅。ソファに落ちた長い金髪。そして、棚の上の写真立てが伏せられている。

「岳史、座って」

「どうした」

「昨夜、誰か来た?」

「来てない」

 部屋の隅から声がした。

『来たよ。かわいいねって言った』

 岳史が青ざめる。

 声の主は、大きなヨウムだった。叔父の旅行中だけ預かっているという。

「この鳥、しゃべるの?」

「少しだけ」

『妻には内緒だ』

 凛音は腕を組んだ。

「少しどころか核心を」

「叔父の口癖を覚えたんだ」

『また明日、同じ時間に』

「毎日来るのね」

「だから叔父の」

『キスして』

「鳥が叔父に?」

「たぶんテレビ」

『岳史、愛してる』

 岳史は両手で顔を覆った。

「そこだけは説明させて」

「どうぞ」

「この鳥、俺の声も真似する」

「つまり、あなたが誰かに言った言葉」

「練習しただけだ」

「誰に言う練習?」

「君に」

「私は一度も聞いてない」

「本番に弱いんだ」

『凛音より、ずっときれい』

 沈黙が落ちた。

 凛音は伏せられた写真立てを起こした。そこには派手な金髪の女性が写っている。岳史は観念したように息を吐いた。

「紹介する。叔父の鳥、エリザベス」

「鳥?」

「写真の女性は叔父。ドラァグショーに出るときの姿」

 玄関が開き、写真と同じ金髪、真紅の口紅、二メートル近い長身の人物が入ってきた。

「まあ岳史、シャツ貸してくれてありがと。昨日、口紅つけちゃった」

 凛音は襟と金髪を見た。

「じゃあ全部、叔父さん?」

「そう」

 ヨウムが翼を広げる。

『岳史、愛してる』

 叔父は岳史の肩を抱いた。

「この子、昔から私にだけは素直なの」

「それも叔父さんに?」

「違う! 鳥の捏造だ!」

 叔父は長い付けまつげを瞬かせた。

「でも岳史、私の新しい衣装を見て『凛音より派手』とは言ったわね」

「比較の軸が違う!」

 ヨウムは首を傾けた。

『本番に弱いんだ』

 その夜、凛音は岳史から初めて告白を聞いた。

 鳥のほうが先に拍手した。