同じ癖の証明
法廷で、匿名作曲家の一曲が証拠として再生された。
被告は著名作曲家の斯波圭介。亡くなった弟子・西園寺アマネの作品を盗んだ疑いをかけられている。斯波自身が音楽鑑定人でもあったため、検察は彼へ皮肉な質問をした。
「この匿名曲を書いた人物を推定できますか」
イントロは三連符から始まった。二つ目だけ、ほんの少し遅れる。斯波はすぐに鼻で笑った。
「私の作品を真似ています。同じ癖です」
アマネは生前、斯波の新曲が自分のデモに似ていると訴えた。だが彼は逆に、弟子が師匠を模倣したと公表した。その後、彼女は失踪し、海辺で遺体となって見つかった。
Aメロで、匿名曲は斯波の代表作を次々となぞった。半音上がるベース。四拍目に置く息。サビ前で一度だけ消える高音。
斯波は自信を強めた。
「ほら、同じでしょう。彼女が私を模倣していた証拠です」
サビが鳴る。だが傍聴席の誰も気づかないほど小さく、二つ目の三連符が正しい位置へ戻っていた。
検察官が波形を拡大する。
「あなたのいう癖は、いつからありますか」
斯波は十五年前からだと答えた。
画面に、アマネが小学生の時に投稿した匿名曲のデータが出る。作成日は十九年前。そこにも同じ三連符、同じ半音、同じ休符があった。彼女は幼い頃から匿名で曲を公開し、その投稿を斯波が偶然見つけ、弟子として囲い込んだのだ。
「同じ癖です」
検察官の言葉に、今度は嘲りがなかった。
最終小節だけ、すべての癖が消えた。アマネは最後の匿名曲で、自分の特徴を一つずつ置き、最後に意図して捨てていた。真似ではないと証明するため、癖を制御できる者だけが書ける終止だった。
斯波は無意識に机を二度叩いた。二打目が少し遅れる。
「同じ癖」
最後だけ、その言葉が指したのは曲ではなかった。
他人の音を盗み、自分のものだと思い込む斯波自身の癖だった。
最後の一音とともに、作曲者欄の匿名表示が解除される。〈西園寺アマネ・十一歳〉。
法廷に残った遅い二打目が、彼の署名より正確な自白になった。