告白お断り係

 大学の新歓期を生き延びた砥上斉一には、あらゆる勧誘を三秒で断る能力が身についていた。

「今、幸せですか?」には「間に合っています」。

「人生を変えませんか?」には「現状維持で」。

「君しかいないんだ」には「部員不足は顧問へどうぞ」。

 テニス、投資研究会、合唱、怪しい自己啓発。四月だけで百二十七件を退けたため、友人からは「告白されても入会案内だと思うぞ」と言われていた。

 その夜、アパートの窓に白い女が立っていた。

 ここは五階で、外に足場はない。

「砥上さん」

「どちらの団体ですか」

「私は篠ノ目ふみ。ずっと、あなたを見ていました」

「監視系サークルはお断りです」

「一人で帰る姿も、夜中にカップ麺を食べる姿も」

「個人情報の取得経路を教えてください」

「あなたの部屋に住んでいるので」

「不動産契約違反では?」

 ふみの体は透けていた。斉一はようやく彼女が幽霊だと気づいた。

「今夜から、私と一緒に過ごしませんか」

「死後世界への勧誘なら結構です」

「違います! 告白です!」

「会費は?」

「ありません」

「定例会は?」

「デートなら」

「退会は自由?」

「その言い方、傷つきます」

 ふみは涙目で壁をすり抜けた。斉一は、幽霊を泣かせた罪悪感に三時間悩み、翌晩、窓辺にプリンを供えた。

「昨日は悪かった。僕も、君が気になってる」

「それは入会希望?」

「交際希望」

「本当に?」

「ただし、枕元に立つのは禁止」

「善処します」

 こうして一人暮らしは、一人と一霊暮らしになった。ふみは映画を見るとスクリーンの前を横切り、喧嘩すると家電を点滅させたが、話し相手としては悪くなかった。

 一か月後、ふみが黒い申込書を持ってきた。

「斉一さん。大事なお話があります」

「告白なら、もう付き合ってる」

「実は、未練者互助会に入りませんか? 生者の協力会員が足りなくて」

「今度こそ勧誘か」

「入会特典は、金縛り一回免除」

「断る」

「紹介者の私に三十徳ポイント入るの」

「仕組みが怪しい!」

 斉一は申込書を破った。ふみは恨めしそうに彼を見つめた。

「恋人のお願いでも?」

「告白と勧誘は別だ」

「成長しましたね」

「誰のせいだと思ってる」

 翌朝、部屋の壁には『会員募集中』の文字が血のような赤で浮かんでいた。斉一が抗議すると、ふみは「水性マーカーです」と答えた。

 幽霊より怖いのは、恋人からのしつこい勧誘である。