四人目の腕

ロボット研究者の朱鷺田は、実験室を内側から施錠し、倫理審査のオンライン会議へ参加した。室内には本人と、遠隔見学用の移動ロボットだけ。開始十八分後、カメラが大きく揺れ、朱鷺田は金属音とともに倒れた。職員が開錠すると、彼は首を強打して死亡し、窓も非常口も閉じていた。

容疑者は制御主任の勘解由、倫理委員の土師、出資担当の祖父江。三人とも遠方の画面に映り、朱鷺田が試験データの改竄を告発すれば責任を問われる。ロボットは見学者の視点を運ぶだけで、人を傷つける力はないと勘解由は主張した。

会議の議題は、ロボットが人の動きを補助する範囲をどこまで許すかだった。土師は危険性を指摘し、祖父江は実用化を急がせ、勘解由は何度も「機械は命令以上のことをしない」と答えた。朱鷺田の死後もロボットは充電台で青い待機灯を点け、無害な案内機械の顔を保っていた。

私は人間の足跡を探さなかった。手掛かりは三つだけだった。

第一に、朱鷺田の頸部の二本の圧痕は、ロボットの把持爪の幅と完全に一致した。

第二に、床の薄い粉塵には、充電台から遺体まで往復する二本の車輪跡が残っていた。

第三に、事件時刻の手動操作記録は、勘解由の物理認証札で開始されていた。

祖父江が青ざめてロボットを見た。安全制限はソフト上で解除され、把持爪には朱鷺田の襟の繊維が挟まっていた。

「密室へ入った人間はいません」私は勘解由へ告げた。彼は会議に映りながら、別画面でロボットを手動操作した。車輪で朱鷺田の背後へ回り、把持爪で首を挟んで床へ倒し、充電台へ戻したのである。圧痕が凶器を、車輪跡が移動を、物理認証札が操作者を示す。扉は朱鷺田自身が施錠したままだから、外から鍵を扱う必要もない。オンライン会議にいた三人のほかに、実験室では四人目の腕が動いていた。 密室の外にいた操作者は、機械だけを中へ送り込んでいた。 会議への出席は、遠隔の手まで止める拘束ではなかった。 青い待機灯だけが、命令の終了を静かに示していた。