四人部屋の秘密投票

恋バナが一周して話すことがなくなり、私たちは秘密投票を始めた。

旅館の便箋を四つに切り、「今日いちばん、どきっとした人」を書く。投票者の名前は書かない。開票係は、じゃんけんで負けた私になった。

一枚目。

「真鳥」

二枚目も、真鳥。

三枚目も同じだった。

部屋の隅で髪を乾かしていた真鳥が、ドライヤーを止めた。普段は目立たず、話すときも人の顔より机を見る子だ。今日の私服も薄い色ばかりで、集合写真では背景に溶けそうだった。ただ、襟元には小さな銀色の鳥がついていた。昼食のとき私が褒めると、真鳥は何度もそこへ触れ、「自分で選んだ」と小声で教えてくれた。誰かに選ばれるより先に、自分で一つ選んだことが、今日の真鳥には大きな出来事だったのだと思う。その鳥は、朝から何度も光っていた。

「こういうの、やめて」

低い声だった。

「からかってないよ」

「じゃあ、なんで三人とも」

一人目は、階段で転びかけたとき腕をつかまれたから。二人目は、土産を選べずにいたら家族構成まで覚えていてくれたから。私は、人混みで遅れたとき、真鳥だけが立ち止まって待ってくれたから。

説明するたび、真鳥の耳が赤くなった。

「四枚目は?」

彼女が聞いた。

最後の紙を開く。そこには、少し震えた字で「私」と書かれていた。

真鳥自身の票だった。

「今日の服、自分で選んだの。鏡を見たとき、ちょっとだけ、いいかもって思ったから」

言い終えると、彼女は恥ずかしそうに俯いた。

私たちは顔を見合わせた。恋バナの答えとして正しいかは分からない。でも、三人とも同時に枕を持ち上げた。

「満場一致!」

枕が真鳥へ飛んだ。彼女は悲鳴を上げて受け止め、すぐ投げ返した。

そこへ見回りの先生が来た。床に散った便箋を拾い、「誰に投票した」と聞く。

四人で真鳥を指すと、先生は事情を知らないまま首をかしげた。

消灯後、真鳥は四枚の紙を重ね、財布の奥へしまった。

旅行の翌週から、彼女は教室で話すとき、机ではなく私たちの顔を見るようになった。