四十八番目の名前

蒔田比佐乃は、新生児管理院で三千人以上の子を取り上げた。

子どもに個人名が与えられるのは、統治AI〈命名院〉が適性を確定する六歳からだった。それまでは出生順の番号で呼ばれる。早く名づけると、養育者が配置変更を受け入れにくくなるからだ。

生存価値が基準に届かない赤ん坊は、番号すら短かった。

比佐乃はそれまで四十七人を番号のまま見送った。帰宅すると番号を忘れないよう指へ書いたが、翌朝には石鹸で消えた。名を与えなかったことが、彼らを二度死なせるようだった。

四八号は、肺が未熟で、翌朝に治療終了と決まった。比佐乃は夜勤の間、小さな胸が必死に上下するのを見ていた。規則では、話しかけてはいけない。

それでも彼女は耳元で囁いた。

「那由。あなたは那由よ」

名に意味はなかった。ただ、番号より遠くまで届きそうな音を選んだ。

翌朝、治療技師が終了操作をためらった。保育器の記録に残った声を聞き、停止対象が四八号ではなく那由に見えたからだ。彼は酸素を一時間だけ延長した。その一時間で肺の数値が基準を越えた。

比佐乃は規則違反で解雇された。解雇通知には〈対象への過剰同一化〉と記された。技師も配置換えになった。〈命名院〉は二人の行為を、感情汚染による偶発的成功と発表した。

比佐乃はその後、葬送区で働いた。番号のまま死んだ子へ、勝手に名前をつけて帳面へ書いた。四十九、五十、五十一。誰にも呼ばれなかった名が、頁だけで増えた。帳面は取り締まりで三度没収されたが、彼女は毎回、覚えている名から書き直した。

二十年後、一通の封書が届いた。

差出人は〈那由〉だった。

中には正式な改名許可証と、短い手紙があった。

〈六歳で別の名をもらいました。でも、最初の名前を返してもらいに来ます〉

待ち合わせの日、若い女性が比佐乃の前へ立った。

「私を呼んでくれた人ですか」

比佐乃は四十八番目の頁を開いた。

完璧な国では、名前が人生を決めた。けれど比佐乃の人生を決めたのは、決められる前の子へ名前を渡した、あの一度だった。