四拍子の机

佐伯春臣は、机を指で叩いていた。

タン、タタ、タン、タタ。

「うるさい」

神谷一颯が言っても止めない。放課後の教室には二人しかおらず、窓から差す夕日が春臣の指を赤く照らしていた。

「これは音楽」

「机にとっては暴力」

「じゃあ神谷も参加」

「俺、ギター。机じゃ無理」

「口でやれ」

「嫌だ」

一颯は帰ろうとしたが、春臣の机に書かれた落書きを見つけた。アルファベットと数字の並び。よく見るとコード進行だった。

「これ、お前が書いた?」

「授業中に思いついた」

「C、G、Am……普通」

「普通が一番難しい」

一颯は鞄を置いた。机の端を爪ではじき、弦の代わりに高い音を出す。春臣の四拍子へ、頼りない裏拍が加わった。

タン、タタ。カッ、カッ。

二人の靴底も、いつの間にか床で拍を取っていた。

「そこ、走るな」

「ドラマーが遅い」

「ギターが前のめり」

「机にギターはいない」

言い合いながら、音は少しずつ合った。窓の外の野球部の掛け声、廊下を走る足音、遠くの吹奏楽部の音階まで、勝手に曲の中へ入ってくる。

春臣は本当は軽音部に入りたかった。だが入部届を出す日に、初心者歓迎の文字の前で引き返した。一颯も、中学でバンドを組んで一度も人前に出ないまま解散したことを、誰にも言っていない。

「文化祭、二人じゃ無理かな」

春臣が拍子を止めずに聞いた。

「何が」

「バンド」

「ベースも歌もいない」

「募集する」

「曲もない」

「今作ってる」

一颯の指が一度止まり、すぐに戻った。

「じゃあ、サビはコード変えろ」

「参加するの?」

「机がかわいそうだから、早く本物の楽器に移る」

春臣は笑い、机に大きく四本の縦線を引いた。カウントの印だ。

「ワン、ツー、スリー、フォー」

二人の手が同時に鳴った。ちょうどその瞬間、下校のチャイムが校内へ響いた。巨大なシンバルみたいに曲を締め、二人は顔を見合わせた。

「今の、使える」と春臣。

「本番でチャイム待つ気か」

机のコードは翌朝消した。四本の縦線だけは、最初の小節として残した。