図書室の未返却

不登校になった彼女へ、私たちは本を返し続けた。

正確には、図書室の同じ棚へ手紙を挟んだ。

学校から連絡をすると返事をしなければならない気がして苦しい、と彼女は言った。だから私と図書委員の友達は、返事のいらない方法を考えた。

夜、閉館後の図書室へ忍び込み、窓際の古い詩集へ手紙を挟む。

翌朝、彼女の母親が司書へ本の返却を頼む。その詩集だけは、彼女が借りたままになっていることになっていた。

実際には、母親が放課後にこっそり受け取り、家へ持ち帰る。

司書の先生も知っていたが、担任や家族のほかの大人には秘密だった。

最初の手紙には、学校の出来事だけを書いた。

『理科室の骨格標本が倒れた』

『購買の新しいパンは甘すぎる』

『窓際の席が空いている』

励まさない。戻ってこいと言わない。返事がなくても、翌週また同じ棚へ入れる。

二週間後、詩集に小さな付箋が増えた。

『骨格標本、大丈夫?』

彼女から初めての返事だった。

私たちは夜の図書室で声を殺して喜んだ。

それから、手紙は少しずつ長くなった。

彼女は朝起きられないこと。制服を見ると息が苦しくなること。友達の投稿を見るのも怖いことを書いた。

私たちは正しい返事を知らなかった。

『分からないけど、読んでる』

とだけ書いた。

冬の夜、図書室で警備員に見つかった。

計画が終わると思った。

しかし現れたのは司書の先生だった。

「もう窓から入らなくていい」

合鍵を一つ、机へ置いた。

「ただし、私がいる時間に来なさい」

大人に言えない秘密は、少しだけ大人を含む秘密になった。

春、彼女は図書室へだけ登校した。

私たちは棚越しに目が合った。

声をかけるべきか迷っていると、彼女が例の詩集を差し出した。

返却期限の欄は、何度も延長されて真っ黒だった。

「これ、返していい?」

「うん」

「手紙は?」

「次から直接」

彼女の声は小さかったが、図書室には十分届いた。

未返却だったのは本ではなく、私たちが渡したまま返事を求めなかった時間だったのだと思う。