土から返した九人
坑道が崩れたあと、土の中から九つの鼓動が聞こえた。
泥で造られた異形イネッサは、膝を地面へ沈めた。掌を広げると、埋まった者の骨の形が指先へ伝わる。砕けた骨を粘土で補い、息の通り道を作れば、人間を土から返せる。
その代わり、作った骨と同じだけ、彼女自身の身体が失われる。
一人目は肩を潰されていた。イネッサは左腕の泥を骨へ変え、男の中へ流し込んだ。土から引き上げられた男は咳をし、彼女の左腕は肘から先がなくなった。
二人目には肋骨を六本。脇腹が大きく抉れた。
三人目の脚を組み直すと、イネッサは自分の右脚で立てなくなった。
救助役のジェダが、縄を腰へ結んで彼女を支えた。
「残りは何人だ」
「六人」
「お前の身体がもたない」
土の下から、石を叩く弱い音がした。
イネッサは四人目へ指を伸ばした。
一人返すたび、彼女は小さくなった。肩がなくなり、腹が薄くなり、顔の片側が崩れた。それでも土の中の鼓動を数え続けた。
七人目を出したとき、残っていたのは胸と頭、一本の腕だけだった。
八人目はジェダの兄だった。背骨が折れ、息が止まりかけている。イネッサは自分の背中をすべて流し込み、男を起こした。もう首を支えられず、ジェダの膝へ頭を預ける。
「九人目はどこだ」
ジェダが尋ねる。
イネッサは地面の奥を見た。
誰より小さな鼓動。見習いとして初めて坑道へ入った少年が、岩の隙間に挟まれている。全身の骨が砕けていた。
彼を直すには、残った身体すべてが要る。
「だめだ」
ジェダは縄を引いた。
イネッサは一本の腕で彼の手を握った。泥の指に、彼が以前くれた青い紐が巻かれている。
「土は、人を埋めるためだけにあるんじゃない」
身体をほどくと、泥は細い流れになって岩の隙間へ入った。
しばらくして、少年が土を割って息をした。
九人が地上へ並び、朝の空気を吸った。
ジェダの手の中には、青い紐を巻いた小さな泥の指だけが残った。彼が名を呼ぶと、指は一度だけ握り返し、そのまま乾いて砕けた。
坑道の入口には九人の生還者の名が刻まれた。
救助者の欄だけは空白だった。雨が降るたび、そこから人の指に似た草が一本ずつ生えた。