声の利用規約

【記憶音声サービス〈コエノコシ〉運営】

20:11 霧島透羽

最後の依頼者へ返金完了。生成データも削除した。

20:12 長谷川央士

本当に全部?

20:13 春日井理一

バックアップが一つ残ってる。削除予約は二十一時。

〈コエノコシ〉は、家族の録音から本人そっくりの声を作り、昔の手紙やメッセージを読ませるサービスだった。卒業研究から始まり、亡くなった人の声をもう一度聞きたいという依頼が集まった。停止のきっかけは、一人の娘から届いた苦情だった。父は生前、自分の声を再現されることに同意していない、と。

20:16 央士

依頼したのは家族だ。喜んでた。

20:17 透羽

喜ぶ人が所有者とは限らない。

20:18 理一

利用規約には、依頼者が権利を持つと保証するって書いた。

20:19 透羽

保証させたから、私たちが確かめなくてよくなっただけ。

チャット上部には、三人で録音した試作音声が固定されていた。透羽の祖母の声に似せた模型が、「卒業おめでとう」と読む。祖母はまだ生きていて、その音声を聞き、「私はそんな言い方をしない」と笑った。その時やめていれば、と透羽は思う。

20:27 理一

僕、ゲーム会社の音響へ行く。架空の人の声を作る。

20:28 央士

俺は弁護士事務所。知財担当。止める書類を書く側。

20:29 透羽

私はホスピスで働く。録音じゃなく、今しゃべってる人の話を聞く。

20:30 央士

三人とも、声から離れないな。

20:31 透羽

離れたら、聞かなかったことになる。

二十一時まで残り五分。理一がバックアップの音声を再生した。知らない男性の声が、家族の依頼文を読む。

「ありがとう。先に行っている」

本人が一度も言わなかった言葉だった。

20:57 央士

消して。

20:58 理一

うん。

20:59 透羽

待って、じゃなくて。消して。

時刻が変わり、ファイル名が灰色になった。央士が退出し、理一のアイコンも消える。透羽は最後に、固定していた祖母の試作音声を外した。

画面の再生欄には〈利用できる音声はありません〉と表示された。その下で、三人の会社アカウントだけが、誰の声でもない通知音を一度鳴らして停止した。