夜明け前の清掃員

月白ギルドの廊下は、夜明け前だけ銀色に曇った。

清掃員ミレイユは、その曇りを古い箒で払った。冒険者が持ち帰る呪気は目に見えず、床の隙間や扉の蝶番へ溜まる。彼女は毎朝、誰も起きないうちに掃き集め、塩水へ沈めた。

貢献度は三%。管理官アルバンは、新しい石床を見回しながら言った。

「汚れてもいない床を掃く者に給金は出せない」

ミレイユは箒を物置へ置き、鍵を返した。

翌晩、月白の廊下で足音が増えた。誰も歩いていないのに、濡れた靴音が冒険者の後ろをついてくる。眠った者は夢の中で帰還できず、魔法を使えば詠唱に知らない声が混じった。

アルバンは建物が古いせいだと主張し、香を焚かせた。香の煙は呪気へ輪郭を与えただけだった。天井から黒い指が垂れ、扉という扉が内側から叩かれ始める。

私物の手袋を取りに戻ったミレイユは、玄関で立ち止まった。銀色の曇りは床ではなく、建物全体を覆っていた。

彼女は逃げようとする新人たちを食堂へ集め、物置から箒を取った。

「扉を開けないで。呼ばれても返事をしないで。これは、帰れなかったものの声です」

ミレイユは廊下を進み、箒で影を自分の足元へ集めた。冒険者の剣も通らない黒い指が、藁の先へ絡みつく。最後に玄関を開け、朝の光へまとめて掃き出した。

アルバンは青ざめたまま、清掃契約書を差し出した。

「前より良い条件で雇おう」

「床の汚れとして扱う限り、同じことが起きます」

塩水桶の底で、建物の守護核が目を覚ました。過去に消された呪詛、封じられた悪夢、守られていた結界が記録として浮かぶ。月白が安全だった理由は、夜明け前に名もなく働く彼女だった。

新人たちは、物置へ捨てられていた予備の箒を拾った。ミレイユは持ち方から教えたが、呪気へ近づけとは言わなかった。見えない危険を軽く扱わず、扱える者へ任せることも仕事だと告げる。

彼女は祝宴より先に装備の浄化を行う規則を掲げた。持ち帰った呪具を自慢のため広間へ置くことも禁じた。

アルバンが清掃補助の章を嫌そうに見つめると、廊下の奥で濡れた足音が鳴った。彼は青ざめ、誰より早く箒を握った。

《聖域保全・真正査定》

旧評価 三% → 真値 九十九%

総合貢献順位 首位:ミレイユ

役職更新 清掃員 → 聖域管理官

旧管理官アルバン → 清掃補助