安すぎる六百枚

王都の織物組合へ、冬営地から毛布六百枚の緊急注文が来た。

一枚銀貨八枚。組合の帳簿上の原価は九枚だった。

「作るほど六百枚の損だ」

組合では冬を前に注文が途絶え、三十人の職人が解雇候補になっていた。停止した織機には埃が積もり、毛布を必要とする兵士は北で凍えている。それでも帳簿の「原価九枚」という一行が、仕事を受ける道を塞いでいた。

芹生は固定費の四枚分を木札にして、注文を受ける場合と断る場合の両方へ置いた。どちらにも同じ札が残る。次に羊毛、染料、出来高賃金の五枚だけを、受ける側へ置く。最後に売値八枚を重ねると、三枚が手元に残った。職人たちは難しい言葉ではなく、その三枚を見た。止まったままなら零。動かせば千八百。選ぶべき答えは、織機の音より明瞭だった。

組合長は注文書を炉へ投げようとした。芹生が奪い取ると、古参職人たちは、数字も読めない転移者が口を出すなと笑った。

芹生は原価九枚の内訳を開く。

羊毛三枚、染料一枚、出来高賃金一枚。ここまで五枚。残る四枚は、工房の家賃と織機の減価、監督者の月給を六百枚へ割り振った額だった。

だが工房も織機も今月すでに借りている。注文を断っても四枚は消えない。織機は半分止まり、職人は仕事を待っていた。

一枚売れば、八枚入り、追加で出るのは五枚。残る三枚。

六百枚なら、銀貨千八百枚が固定費の穴を埋める。止まっていた織機が回れば、職人三十人の給金も満額へ戻せる。

組合長の指が止まった。

「帳簿では一枚九枚だぞ」

「通常価格を決める原価と、空いた織機で追加注文を受ける判断は別です」

芹生は長く語らず、八から五を引いた三を大きく囲んだ。

軍使は返事を急かした。隣国の組合は一枚十枚を要求しているという。芹生が納期十五日と書くと、職人たちが一斉に織機を見た。止まっている三十台なら間に合う。

組合長は炉から印章を取り戻し、注文書へ押した。

「六百枚、受ける」

軍使はその場で着手金九百枚を置き、次の千枚分の優先契約も芹生の前へ広げた。