完売公演の百一番席
人気劇団《カデンツァ》の千秋楽チケットは、発売一分で完売した。
販売担当の御子柴玲央は、同じ電子席券を百人へ売っていた。購入者が入場できなくても、「転売サイトの偽物だ」と劇場側へ責任を押しつける。
遠方から来た学生が入口で泣いても、玲央は警備員に追い払わせた。その直後、売れ残りの関係者席を倍の値段で現金販売し、「熱心なファンほど何度でも払う」と笑っていた。
新人の景都が重複番号を見つけると、玲央は画面を閉じた。
「黙っておけ。百一番席は存在しないから、誰も本物を証明できない」
「返金した方が」
「お前のアカウントで発行したことにしてある。騒げば警察へ突き出すぞ」
玲央は得意げに管理画面を開き、百枚の複製券を一括送信した。その操作を説明するため、景都の端末へ画面共有まで行う。
公演当日、入口には百人の購入者が集まった。劇場側が用意した救済席は、どう詰めても十席しかない。誕生日の娘を連れた父親、夜行バスで来た学生、最後の舞台を見届けようと杖をついた老女。同じ番号を見せ合い、誰もが自分だけは本物だと信じていた。開演ベルが近づくほど、怒声よりも、入れないかもしれないという沈黙が広がった。玲央は壇上に立ち、景都が偽券を作って売ったと発表する。
景都はただ、劇場支配人へ共有記録を渡した。
玲央は笑った。画面共有には肝心の操作部分を映していないと言う。
支配人が記録を再生すると、玲央の管理画面右上に発行者IDが表示された。さらに、複製の元となった席券には、購入者ごとに異なる微細な透かしが入っている。百枚すべてに最初の一枚と同じ《発行者・御子柴玲央》の透かしが残っていた。
「システムの不具合だ!」
玲央が叫ぶ。
その瞬間、購入者の一人が動画を見せた。玲央は販売前夜、転売配信で「百一番席なら何枚でも作れる」と顔を出して実演していた。売上の振込先も、彼の個人口座だった。
劇場支配人は満席表を閉じ、警察官へ頷く。
「御子柴玲央。電子計算機使用詐欺の逮捕状を執行します」