家族代表ではありません

椿は父へ送る書類を一箱にまとめていた。離婚後も、母は父の住所を知っている。それなのに家族グループでは、何かあるたび椿が呼ばれた。

母 お父さんに印鑑証明を頼んで

弟 ついでに保険のことも聞いて

母 椿なら話せるでしょう

箱の中には、父名義の契約書と古いアルバムが入っている。どちらも母は「あなたから返して」と言った。父と話したくない気持ちを、娘の手に持たせるように。

電話が鳴った。母だった。

「今日中にお父さんへ連絡してね」

「しないよ」

「もう箱を作ったんでしょう」

「発送はする。質問はお母さんが直接して」

「今さら話せない」

「私も、二人の間に立つのはもう無理」

母は「家族代表なんだから」と言った。昔、親戚の集まりで大人が揉めると、椿はお茶を運ばされた。場を壊さない子、両方の話を聞ける子。その褒め言葉の中に、逃げ道はなかった。

椿は箱の蓋を閉じた。宛名には父の住所だけを書き、差出人は自分ではなく母の名にする。

「勝手に私の名前を使わないで」

「これはお母さんの荷物だから。嫌なら、自分で送り直して」

母の息が詰まる。椿は家族グループに父のメールアドレスと、母の連絡先を並べて投稿した。

椿 今後、父への質問は本人に直接お願いします

椿 私は伝言と交渉を引き受けません

弟が「了解」と返す。母は「そんな言い方」と打ちかけて削除したらしく、入力中の表示だけが長く残った。

「私たちのこと、どうでもいいの?」

「どうでもよかったら、今までやってない。大事だから、役目を返すの」

椿は電話を切り、集荷の伝票を箱に貼った。箱は重かったが、持ち上げられないほどではない。玄関まで運び、配送業者へ渡す。

受領印が押された瞬間、家族グループに父から直接「書類の件、母さんと連絡する」と入った。母の既読がつき、今度は入力中の表示すら出なかった。話すか、話さないか、その不自由さも二人のものだ。椿が整える必要はない。

椿は返事をしなかった。代表ではない者に、確認の言葉は必要なかった。