家畜扱いされた民の柵
農村の柵直しセルドは、王都へ入るたび家畜門を使わされた。
新税法で農民は《王家所有の生産家畜》と記され、正門を通る資格を失ったからだ。セルドが壊れた村柵を直しても、役人は「逃げない牛囲い」と呼び、代金を払わなかった。
彼の技能も、家畜相手のものだった。
【大囲い直し:家畜を守る囲いの破れを塞ぎ、破れを越えた内外のものを本来の側へ戻す。囲いの広さは問わない】
魔界の裂け目が王都上空に開いた日、黒い獣の群れが城壁を食い破った。爪の一振りで塔が崩れ、魔術障壁は裂け目から流れる闇に溶ける。
王は地下道から城外へ逃げ、農民街の門を閉じろと命じた。内側には数万の民、外側には王と財宝馬車。獣は破れた壁から次々と入ってくる。
「囲いなど直している暇はない!」
近衛隊長が叫ぶと、セルドは税法の石板を掲げた。
「陛下が決めたのでしょう。国中の農民は王家の家畜だと」
ならば、国境と城壁は彼らを囲う一つの柵になる。
セルドは折れた柵杭を城壁の亀裂へ差し込み、技能を使った。
土塁、城壁、国境石、海岸の防波堤まで、王国を囲む全ての境界が金色につながる。崩れた門は立ち上がり、空の裂け目さえ柵の破れとして閉じていった。
すでに内側へ入った魔獣は、黒い煙となって魔界側へ押し戻される。連れ去られかけた住民は元の街路へ戻り、傷一つ増えなかった。
最後に境界が閉じる。
城外へ逃げた王の馬車だけは、外へ出たものとしてそのまま残った。王が正門を叩いても、黄金の柵は開かない。民を家畜と記した本人は、囲いの持ち主ではなく、群れを捨てて外へ出た者だった。
セルドは税法の石板を裏返し、農民たちの前へ置いた。
城内の役人は急いで税法を消そうとしたが、石板は広場の全員に読まれていた。農民たちは《生産家畜》の文字を削り、自分たちの村名を刻み直す。王が外から赦しを求める間に、正門は初めて荷車と農民へ同じ幅で開かれた。
《職業が【農村柵直し】から【界柵守護王】へ書き換わりました》