小さいケーキの理由

金曜の午後十時、凪紗はコンビニで一番小さいチーズケーキを買った。

小夜から届いた結婚報告を読んだのは、会社のエレベーターの中だった。

〈急だけど、来週入籍します〉

その下に、照れた顔の記号が一つ。凪紗はすぐに〈おめでとう〉と返した。返せたのに、帰り道ずっと、胸の内側に薄い棘が残っていた。

小夜とは去年まで、会うたびに「もう結婚はいい」と言い合っていた。アプリで会った人の話、親からの電話、同期の出産報告。二人で笑い飛ばすと、自分だけ置いていかれている感じが薄くなった。

その小夜が、凪紗の知らないところで誰かと出会い、結婚を決めた。

もちろん、約束ではない。仲間でいるために独身でいる義務などない。分かっている。それでも、先に岸へ上がった人が「泳ぐのも悪くなかったよ」と言っているようで、少しだけ腹が立った。

部屋に着き、惣菜の焼きそばを開ける。麺は容器の形に固まっていた。ケーキは透明なふたの中で、きれいな三角形を保っている。

小夜から追加のメッセージが届いた。

〈直接言いたかったけど、待てなくて。凪紗には最初に伝えた〉

凪紗は、うれしさと棘が同時にあることを認めた。どちらかを消してから返信しようとすると、たぶん今夜は何も言えない。

〈びっくりした。ほんとにおめでとう〉

そこまで打ち、もう一行加えた。

〈ちょっとだけ裏切られた気もしてるから、今度詳しく聞かせて〉

送信したあと、言いすぎたかと思った。だが小夜からはすぐ、〈ごめん、分かる。私も自分に裏切られた〉と返ってきた。

凪紗は笑った。棘は消えなかったが、刺さったままでも友人でいられる気がした。

焼きそばを半分食べ、ケーキのふたを開けた。誰かの結婚を祝うために買ったのか、自分を慰めるために買ったのか、もう分からない。

分からないまま、最初の一口を大きく取った。

甘さは焼きそばのソースと混ざって、あまり上品ではなかった。凪紗はそれでよかった。祝福だけのきれいな夜にできなくても、ケーキを食べる理由は一つでなくていい。