左手の清掃員

盗難の夜には、いつも左手の清掃員が現れた。

高級ホテルで、客室の金庫から宝石や現金が少しずつ消えていた。各階の監視映像には、灰色の制服を着た同じ清掃員がサービス扉の死角へ入る姿が残っている。顔は帽子とマスクで見えず、右手は常にポケットへ入れたままだった。

一階の映像では、ワゴンのホテル名が進行方向の左側にある。五階では右側にあった。清掃責任者は、ワゴンを途中で交換したのだろうと言った。

靴も奇妙だった。ある夜は左足の踵だけが磨り減り、別の夜は右足をわずかに引きずっている。責任者は、長時間勤務で歩き方が変わったのだと説明した。

疑われた契約清掃員は、夜勤をしていないと訴えた。社員証は盗まれておらず、制服もロッカーにあった。だが映像の人物は、彼女とほぼ同じ背丈だった。

盗難品の選び方にも統一性がなかった。宝石を取る夜もあれば、封筒の現金だけを抜く夜もある。責任者は、捕まりにくいよう手口を変えたのだと言った。しかし一人の欲望にしては、狙う物より、被害に遭う客室の担当部署が妙に規則正しく分かれていた。

私は全件の映像を同じ速度で重ねた。肩の高さが毎回数センチ違う。ワゴンを押す左手も、指の長さが一致しない。右手を隠していたのは、共通する傷や指輪を見せないためではない。別人たちが同じ姿に見えるよう、比較できる情報を半分に減らすためだった。

客室の電子錠記録を照合すると、盗難のあった階ごとに異なる従業員カードが使われている。料理係、ベル係、設備係。全員が、カメラの死角へ入る前だけ清掃員の上着を羽織っていた。

責任者は一人の常習犯を探すよう警察へ求めていた。しかし、盗まれた額は各従業員の未払い残業代とほぼ同じだった。責任者が横領していたサービス料を、彼らは帳簿ごと取り戻そうとしていたのである。

灰色の制服は一着ではなかった。回収されたロッカーから、同じサイズの上着が七着出てきた。

盗難の夜には、いつも左手の清掃員が現れた。

その人物が見つからなかったのは当然だ。

右手を隠した一人の清掃員など、最初から存在せず、死角へ入るたびに中の人間が入れ替わっていた。