幕間に間に合わない

王都劇場の初日、主役は第二幕へ出られなかった。

「青い軍服はどこ!」

 舞台袖で俳優が叫ぶ。衣装箱を開ければ、帽子、靴、剣帯、外套が絡み合っている。ようやく見つけた軍服は、袖に貴族役の金飾りが縫いつけられていた。

 幕間は三分。客席のざわめきが波のように大きくなる。舞台では脇役が同じ台詞を三度繰り返して時間を稼いだが、楽団の曲は先へ進み、物語の決闘だけが取り残された。

 劇団長バルネは昨日、荷物持ちミレカを追い出した。「衣装箱を運ぶだけで、役者より口を出す女はいらない」と。

 ミレカは箱を運ぶだけではなかった。次の場面で着る順に衣装を重ね、右手で取る小道具は右側へ、濡れた衣装は別箱へ収めていた。留め具まで半分外し、役者が息を一度吐く間に着替えられるようにしていた。

「適当に着ろ!」

 主役は青い軍服に料理人の長靴を履いて舞台へ飛び出した。悲劇の決闘場面で、客席から最初の笑いが起きる。剣を抜けば鞘だけで、中身は道化役の箱だった。

 同じ夜、ミレカは路地裏の小劇場で、三人分の衣装を一つの棚へ並べていた。

「赤紐を引けば一幕、銀紐なら二幕です。暗くても手触りで分かります」

 演出家セシラが試す。目を閉じても、必要な衣装と小道具が一度で揃った。

「うちには荷物持ちを雇う余裕はない。でも舞台進行主任なら必要だ」

 公演は遅れなく進み、狭い客席から温かな拍手が続いた。衣装替えに追われていた役者たちは、余った数十秒で呼吸を整え、台詞を確かめられた。ミレカの棚は、演技そのものまで変えた。最後の暗転で、セシラはミレカにも舞台上へ出るよう背を押した。

 そこへ王都劇場の使者が走り込む。

「ミレカ、戻ってくれ。明日は王妃陛下がご覧になる。団長は、衣装だけ整えれば以前の件を水に流すと」

「水に流すのは、そちらですか」

「謝罪が必要なら幕の後でする。とにかく今夜中に箱を直せ」

 ミレカは小劇場の銀紐を結び終え、使者へ微笑んだ。

「劇場の裏口から追い出された時点で、王都劇団との進行契約は終了しています」