弱体化しかできない術師

グラナの魔法は、何も起こらないように見えた。

敵の足から速さを奪い、甲殻から硬さを削り、咆哮から恐怖を抜く。炎も雷も出ないため、討伐記録には仲間の名だけが並ぶ。

成果板の貢献は3%。隊長ヘディルは、自分の大剣で倒れた魔獣を指した。

「弱くするだけなら誰でもできる。倒しているのは俺だ」

グラナは補助契約を切られた。別れ際、大剣が届く速さも、刃が通る硬さも、最初から敵のものではなかったと告げたが、聞かれなかった。

次の討伐で、ヘディルは同じ種類の魔獣へ大剣を振った。

刃は甲殻で弾かれた。

魔獣は見たことのない速さで踏み込み、盾役を壁へ飛ばす。咆哮を浴びた魔術師は詠唱を忘れ、治癒師は膝を抱えた。ヘディルは以前より強い個体だと叫び続けた。

依頼主へ契約石を返しに来たグラナは、討伐場から逃げる民衆を見た。彼女は戻ればまた都合よく使われると知っていた。それでも杖を上げた。

光は出ない。

魔獣の踏み込みが鈍る。甲殻の艶が曇る。咆哮はただの息へ変わる。

ヘディルの大剣が、ようやく通った。

盾役は立ち上がり、自分が急に強くなったのではないと理解した。魔術師も、恐怖へ耐えたのではなく、恐怖そのものを薄めてもらっていたと気づく。派手な決定打の前には、グラナが敵から奪った無数の優位があった。それを知った仲間は、ヘディルより先に彼女へ頭を下げた。

彼は倒した瞬間だけを見て歓声を求めたが、誰も応えなかった。先ほどまで動けなかった仲間たちは、グラナが杖を下ろすと同時に魔獣の圧力が戻るのを見ていた。

帰還後、成果板が討伐の最後ではなく、可能になった行動を算定した。剣が届いた理由、盾が耐えた理由、魔術師が恐怖へ勝てた理由。そのすべてが、見えない削減として彼女へ集まる。

ヘディルは勝利者の名を変えるなと怒鳴った。

グラナは静かに答えた。

「最後に触れた人が、最初から戦っていたとは限りません」

《討伐貢献・真正算定》

申告値:3% → 真値:96%

働き順位:首位 グラナ

役割更新:弱体補助 → 討伐設計者

旧隊長ヘディル:火力実演員