役を着る王女服
淡桃色の王女服は、一時間着るごとに、その役に必要な資質を一つ与える。その代わり、着る者らしい癖を一つ奪う。
ペトラは旅芸人だった。王女が失踪した夜、顔立ちが似ているという理由だけで宮殿へ連れてこられた。
「三時間、隣国の使者と晩餐をするだけです」
侍従は言った。交渉が終わる前に王女不在が知られれば、国境で待つ兵が動く。ペトラが断れば、最初に焼かれるのは旅芸人たちの野営地だった。
舞台では、化粧で顔も年齢も変えてきた。それでも仲間は、爪を噛む速さや、台詞を忘れたとき右足で拍子を取る癖で、必ず彼女を見つけた。癖は欠点ではなく、どんな役からも自分へ帰るための目印だった。王女服が奪うのは小さな仕草にすぎない。だが目印を全部失えば、幕が下りてもペトラへ戻れない。
一時間目、ドレスは彼女に完璧な礼儀作法を与えた。
代わりに、緊張すると親指の爪を噛む癖が消えた。幼なじみのジルは、柱の陰からそれを見て顔を曇らせた。
二時間目、四か国語が舌に流れ込んだ。
代わりに、嬉しいと鼻歌を歌う癖がなくなった。二人で馬車を直した夜、いつも歌っていた旋律が遠ざかる。
三時間目、王族らしい決断力が胸に満ちた。
代わりに、誰かに飲み物を渡すとき必ず「熱いから気をつけて」と言う癖が消えた。それは、火傷した妹を看病して以来、無意識に続けてきた言葉だった。
交渉は終わらない。使者は、王女自身が停戦文書へ署名するまで帰らないと言う。
「もう一時間着れば、王女の筆跡まで手に入ります」
侍従が背中の紐を締め直した。
「その代わり、何がなくなる?」とジルが尋ねる。
ペトラにも分からない。大笑いすると机を叩くことか。眠る前に靴をそろえることか。ジルだけに見せる、左目をつぶる合図か。
窓の向こうで、国境へ向かう伝令馬が待っている。
ペトラは署名台へ歩いた。
四時間目の鐘が鳴る。
ジルが昔からの合図で左目をつぶった。
王女の筆跡を得たペトラは、見知らぬ無作法を見るように眉をひそめ、停戦文書へ名前を書いた。