扉を閉めない戦争会議

地下会議室の扉が閉まると、ユノは息ができなくなる。

だから魔王エクリスは、どれほど機密の会議でも扉を開けたままにした。廊下には防音結界を張り、ユノの席から出口が見えるよう机の向きまで変える。

「敵の間者が入る危険があります」と将軍が訴えた。

「余がいる部屋へ入れるなら、褒めてやる」

最強の魔王が言えば、誰も反論できない。

その日、最後の人間王国を攻める作戦が審議された。ユノは元王国書庫員で、城下の地下水路を知る唯一の人間だった。

将軍が鉄扉を指す。

「作戦を聞いた以上、決行までここから出すわけには参りません」

扉が閉まりかけ、ユノの指が震える。

「開けてください」

エクリスが片手を上げる。鉄扉は触れられもしないまま砕け、壁の外へ飛んだ。

「二度と閉めるな」

将軍は青ざめながらも食い下がった。

「ではユノ殿に、秘密保持の拘束術を」

「嫌です」

ユノは自分で言った。

「水路の地図は渡します。でも、頭へ術を入れられるのは嫌です。それに民間区へ兵を通す案には協力しません」

会議室が静まる。

「陛下、この人間は作戦へ口を出しております」

エクリスは地図を見下ろした。

「口を出させるために呼んだ」

「拒否するなら牢へ」

「余の前で、誰を牢へ入れると言った?」

魔王の魔力が広がり、将軍たちは椅子から立てなくなった。だがユノの周囲だけ、風は穏やかだった。

エクリスは彼女へ向き直る。

「協力できる範囲は」

「兵ではなく、避難民を水路から逃がす案なら。三日あれば誘導図を作れます」

「採用する」

「陛下、侵攻が遅れます!」

「遅らせろ」

ユノが扉のない出口を見つめる。

「今、帰ってもいいですか」

「もちろんだ。明日来なくても構わない」

魔王は全軍命令書へ自ら書き加えた。

「侵攻は延期。地下水路は避難専用とする。ユノへの拘束術、監禁、強制協力を禁ずる」

将軍たちの前で、エクリスは出口への道を空けた。

「余の勝利より、ユノが自分の足でこの部屋を出られることを優先する」