指先の凱歌

十本目の鎖を切るには、十本目の指が要った。

ガルメアは処刑塔の歯車へ左手の小指を差し込んだ。黒い硝子になった九本の指では、封印は反応しない。まだ温度を感じる最後の一本だけが、人の指として認められた。

塔の上では、息子のティルサを含む十人の子どもが吊られている。歯車を回せば縄が上がる。失敗すれば落ちる。

彼女の力《凱指》は、勝利するたび一本の指を黒硝子へ変える。硝子の指は刃を弾き、鉄を砕く。代わりに触覚を失う。

一勝目で雨粒を感じなくなった。三勝目で剣の柄の革を忘れた。六勝目の夜、ティルサの熱を測ろうとして、火傷するまで額へ手を当てていた。九勝目のあと、彼を抱くと強すぎると言われた。昔は小指だけをつないで市場を歩いた。その最後の感触だけが、まだ残っている。

「母さん、もういい!」

塔上からティルサが叫ぶ。「僕一人なら落ちても――」

「十人いる」

ガルメアは小指を奥へ押した。

歯車の守護獣が石壁から現れ、彼女の腕へ噛みつく。九本の硝子指で顎を掴み、砕く。守護獣は何度も再生した。倒すには、人の指で心臓の留め金を外すしかない。

小指を引き抜けば、子どもたちが落ちる。

ガルメアは噛まれたまま腕をねじり、最後の指で留め金を弾いた。

守護獣が崩れる。

勝利の音が塔に響いた。

小指が根元から黒く透き通る。もう痛みも、歯車の冷たさもない。

縄が上がり、十人が床へ降ろされた。ティルサが駆け寄り、彼女の両手を握った。

「温かい?」

ガルメアは答えられなかった。

見れば息子の掌は赤い。自分の硝子指が強く食い込み、皮膚を裂いている。それでも加減が分からない。

「ごめん」と言って手を放す。

一本の指が床へ落ちた。衝撃を感じなかったため、ひびが入っていたことにも気づかなかった。

ティルサは欠けた指を拾い、胸に抱いた。

ガルメアは両腕を背へ回す。もう誰にも触れないように。

十勝した英雄の手は月光を美しく透かしたが、掌紋も体温も、誰かを撫でた記憶も映さなかった。