提灯が消える前に

会社の倉庫でイベント用品を整理していた澄佳は、赤い提灯のコードに触れた。

電球が一つずつ消えていく感触を、指が先に思い出した。

高校の夏祭りで、生徒会だった澄佳と鳴海は後片づけを任された。二人は一年生からいつも一緒だったのに、三年の春からほとんど話していなかった。志望校をめぐる喧嘩がきっかけだった。

鳴海は地元の大学へ進み、家の店を継ぐ。澄佳は東京へ行く。

「逃げるみたい」と鳴海が言い、澄佳は「残る方が正しいみたいに言わないで」と返した。それきりだった。

祭りが終わった境内で、二人は脚立を運び、提灯の電源を端から抜いた。明るい間は、屋台の人たちが行き来していて話さずに済んだ。十個、九個、八個。暗くなるほど、互いの輪郭だけが近くなった。

最後の一個の前で、鳴海が手を止めた。

「これ消したら、本当に終わるね」

「祭りは毎年あるでしょ」

「同じ二人では、もうやらない」

澄佳は、鳴海が自分を責めたいのではないと、ようやく分かった。置いていかれるのが寂しかったのだ。自分も同じだったのに、選択を否定された怒りに隠していた。

「せーので消そう」

澄佳が言うと、鳴海は笑った。

「子どもみたい」

「最後くらい」

二人は同じコードに手をかけた。

「せーの」

提灯が消える。真っ暗になったせいで、澄佳は初めて素直に言えた。

「東京に行っても、友達でいたい」

暗闇から、鳴海の「私も」が返った。

二人はその後、毎日連絡を取る友達ではなくなった。会えば話せる。何年会わなくても、相手の選んだ暮らしを否定しない。その距離が二人には合っていた。

二十七歳の澄佳は今、地方支社への異動を打診されている。東京に残ることだけが、十七歳の自分への忠誠だと思いかけていた。

倉庫の提灯を一つ点け、また消す。選び直すことは、昔の選択を裏切ることではない。

澄佳は異動承諾のメールを送った。赴任先は、鳴海の町から電車で一時間。

すぐ会う約束はしない。ただ、〈そっちに行くことになった〉と伝える。

倉庫を出る前、澄佳は最後の照明を消した。暗くなった先には、終わりではなく、自分で選び直した道が続いていた。