救助料は一円です

《伏見円、遭難者に金を要求したって》

《救助ビジネスで炎上した守銭奴》

《子ども相手にも請求する気かよ》

 黄金蟻の巣で、小暮太一は三人の仲間と透明な樹脂に固められていた。

 巣の天井は崩れ始め、外から樹脂を割れば身体まで砕ける。転移術は、所有権のない対象を運べない。

 伏見円は樹脂の前にしゃがみ、少年と目を合わせた。炎上後、彼女には『救助を金で選ぶ女』という札がつき、自治体からの依頼も止まった。それでも腰の会計端末には、百七件分の小さな領収書が保存されている。

「一円、払えますか」

 太一は震える指でポケットを探り、傷だらけの硬貨を一枚だけ押し出した。

《本当に請求した》

《最低》

《待て、円の技能条件を誰か確認しろ》

 円は硬貨を一度だけ握った。

 金色の契約線が樹脂の中へ走る。太一だけでなく、彼が「仲間」として手をつないでいた三人にも同じ印が灯った。

 四人の姿が樹脂から消え、円の背後に並んで転送される。直後、天井が崩れ、空になった塊を押し潰した。

 円の固有技能《有償救済》。本人が納得して支払った額にかかわらず、一件の契約で「守ると決めた者」全員を安全地帯へ移す。無償では発動せず、強制徴収でも失敗する。だから彼女は必ず先に金額を告げる。

《契約総額、税込み一円》

《炎上動画の字幕、“一円”を“一億円”に加工してる》

《原音解析で確定。億の音だけ別配信から合成》

《四人とも外傷なし。硬貨も領収処理済み》

 太一が円の袖をつかんだ。

「一円で、本当にいいの?」

「命の値段じゃありません。あなたが助けてと言った証拠の値段です」

 円は電子領収書を発行し、但し書きに「四名救助」と入力した。

 少年はそれを宝物のように胸へ抱く。円は拾い上げた一円玉を透明袋へ封じ、救助記録番号を書いた。後日返金するのではない。契約の意思を軽く扱わないため、必ず証拠として保管するのだ。

《透明すぎる会計》

《守銭奴どころか毎回一円だった》

《過去百七件、請求総額百七円》

《庁の緊急会議、決定出た》

 円の領収書へ、公印が一つ追加された。

【公式認定――《一円救助契約》を全国ダンジョン標準手順に採用】