敵の号令を運ぶ者
荷役のエディムは、赤耳小鬼の砦を前にして荷箱を左右へ積み替えた。
「戦う前から荷崩れか」
剣隊長ラセルは苛立った。エディムの仮寄与率は3%。北方語の通訳として雇われたが、小鬼の叫びは誰にも意味のない鳴き声に聞こえる。隊長は彼を単なる荷運びと決めつけていた。
砦の門が開き、小鬼たちが左右に分かれた。
「右の旗は囮です」
エディムが告げる。
「敵の旗まで読めるつもりか」
ラセルは右へ突撃した。だがエディムは荷車を左の細道へ押し込み、後衛へついてくるよう手で示した。
小鬼の号令は言葉ではない。母音の長さで、誰を狙うかを伝えていた。今の叫びは「光る鎧を追え」。派手な鎧のラセルは囮部隊を引きつけ、本隊は無防備な魔術師へ回ろうとしている。
エディムは荷箱の金具を鳴らした。小鬼の号令と同じ長さで、短く、長く、また短く。
敵本隊が足を止める。
彼らには「門へ戻れ」と聞こえた。
エディムは金具を鳴らしながら荷車を押す。混乱した小鬼たちは、自分たちの砦へ次々と戻った。後衛はその背後から侵入し、門の巻き上げ機を落とす。
囮を追っていた部隊も退路を失い、狭い中庭へ閉じ込められた。ラセルが戻ったとき、敵はすでに武器を捨て、討伐対象の赤耳王だけが玉座で震えていた。
隊長は王へとどめを与え、「陽動作戦が成功した」と報告した。
戦果盤は砦に残った音を解析する。小鬼の移動は剣隊長の号令ではなく、荷箱の金具が鳴るたび変わっていた。さらにラセルの突撃は、敵の命令どおり囮へ誘導された行動だと示された。
エディムは空になった荷箱を閉じる。留め金が小さく鳴ると、捕虜の小鬼たちが反射的に整列した。
誰が彼らを動かしていたのか、もう異議を唱える者はいなかった。
捕虜の小鬼が金具の音を聞いてエディムへ敬礼すると、大広間の笑いは完全に消えた。敵さえ誰の命令で動いたか理解している。ラセルの剣隊章は荷箱の上へ置かれ、次の砦図は通訳の手元へ運ばれた。
【再算定完了】
【エディム・討伐寄与率:3% → 97%】
【隊内順位:最下位 → 首位】
【役職更新:荷役通訳 → 対魔軍令官】