料金メーターの三音

鳥飼郁警部補は、タクシー料金の問い合わせとして処理された通報を止めた。

――空車から実車、待ち、迎車。三つ押すと、いくらになります?

電話したのは情報屋の水無瀬カナ。夜勤のタクシー運転手で、後部座席の会話を県警へ売っていた。彼女は料金など知り尽くしている。声は明るいが、背後で誰かが拳銃の遊底を引く音がした。

受理員が車両番号を尋ねる。

――答えられない。お客さん、警察の人だから。押収した銃を返しに行くんだって。

カナはメーターのボタンを三度押した。高い音、低い音、二連の短音。続いて車内無線で「湾岸五号、閉鎖解除」の案内が流れる。

――音の順番を、車庫の表で見て。私が曲がる場所だから。

そこで男の声がした。

――誰に電話している。

通報は切れた。翌朝、タクシーだけが埠頭で見つかり、カナの行方は分からない。捜査一課は乗客による強盗事件として扱い、押収銃の話は「恐怖による作話」と報告した。

郁はタクシー会社の操作表を机に広げた。三つのボタン音は料金操作ではなく、運転手同士が使う緊急符号だった。高音は右、低音は左、二連音は停車。湾岸五号の解除時刻から逆算すると、車は県警の武器庫裏へ着く。

武器管理記録には、同時刻、押収拳銃一丁が「鑑定貸出」として搬出されていた。受取人は捜査一課長。返却欄には翌朝の署名があるが、監視カメラに持ち込み映像はない。

課長は郁の机へ来て、操作表を畳んだ。

「カナは客の秘密を脅しに使う女だ。拳銃の話で捜査費を取ろうとした」

「では、なぜ課長の貸出時刻と一致するんです」

「武器庫の記載ミスだ。これを外へ出せば、押収銃すべての証拠能力が争われる。何百件も崩れるぞ」

郁は、正しい一件が何百件を傷つける重さを知っていた。だが傷を隠したまま積み上げた件数を、正義とは呼べなかった。

彼女は通報原音、操作表、貸出台帳を一枚の証拠保全申立てにまとめた。課長が畳んだ表を伸ばし、三つの音の順に赤鉛筆で矢印を引く。

最後の矢印が武器庫を指したところで、郁は申立書を検察庁へ送信した。