新婦のいない赤飯

披露宴を終えた宴会場で、プランナーの環は撤収表を確認していた。雨で進行が遅れ、昼から何も食べていない。そこへ料理長の神代が、赤飯の小さな椀を置いた。

「スタッフ食に赤飯はありませんよね」

「注文は通っています」

考えられるのは神代、今日の新婦・遠野、後輩の佃だった。遠野は何度も予定を変えたことを気にしていた。佃は環の空腹を知っている。神代は節目でもない日に赤飯を炊く人ではない。

椀には、今日使っていない銀色のリボンが結ばれていた。添えられた席札には「裏方席」とある。伝票の注文日は、ちょうど一年前だった。

一年前の同じ日、環は豪雨で庭の式を失った新婦のため、館内の回廊を花と灯りで飾り直した。銀のリボンは、そのとき使ったものだった。

「去年の花嫁さん?」

今日の遠野が控室から顔を出した。「姉です」と答える。一年前の新婦は遠野の姉だった。式の翌日、彼女はこの会場に代金を預け、「次に雨で困った花嫁を助けた日、担当者へ赤飯を」と頼んでいた。

直接贈れば環が規則を理由に断る。だから料理の予約として一年先へ置いていったのだ。神代は注文を守り、佃は今日こそ条件の日だと気づき、遠野は姉から託された席札を持ってきた。三人とも少しずつ共犯だった。

「姉は、環さんに祝ってもらったから、今度は環さんの仕事を祝いたいって」

環の仕事は、写真に写らないことが成功の証しだった。濡れた床を拭き、遅れた進行を縮め、誰かの不安を別の扉から逃がす。新郎新婦が『予定どおりでした』と笑えば、それで十分だと思っていた。けれど一年前の姉妹は、予定どおりでなかった一日まで覚え、裏方の席を予約してくれた。見えない仕事を見つけてもらうことが、こんなに照れくさいとは知らなかった。

成功した式を、自分の祝いだと思ったことはなかった。環は椀を両手で包み、もち米を一口だけ食べた。小豆の塩気が、張りつめていた肩をほどく。

佃が撤収表を閉じた。

「今日は裏方も、お開きにしましょう」