新米の産地欄

新米の直売会で、石動原大雅は整理券を束ごと握り、軽トラックへ米袋を積ませていた。

「親戚二十世帯分だ。都会の家族へ送る」

稲守谷千帆は、生産者組合の受付で住所を確認した。同じマンションの一室が、二十通りの表記で書かれている。

大雅のスマートフォンには、〈幻の棚田米・農家直送〉という販売ページがあった。直売価格の五倍。生産者名には、実在しない農家が記載されている。

「買った米に自分のラベルを貼って何が悪い」

千帆は袋のQRコードを読み込んだ。

この米は、田んぼ、収穫日、乾燥施設まで追跡できる。購入者が袋を開ける前に別名義で転売すれば、コードと販売表示が一致しない。しかも大雅は、昨年産の安い米にも同じラベルを貼り、今年の新米として予約を取っていた。

組合長が販売を停止した。

大雅は積み込み済みだから所有権は移ったと主張する。しかし決済は本人確認後に確定する仕組みで、二十件とも虚偽住所のため未完了。直売会の規約では、本人確認と購入上限の確認が済むまで積み込みも仮置きにすぎなかった。米袋はまだ組合の所有だった。

県の食品表示担当が、出品ページと倉庫の在庫を確認しに来た。大雅の古米袋には産年、精米日、品種の表示がなく、産地証明も偽造されている。トラックには無地袋とラベルプリンターが積まれ、直売会の駐車場で貼り替える準備まで済んでいた。通販サイトは全商品を停止し、予約客へ返金を始めた。

大雅がトラックを出そうとすると、組合員たちが荷台から袋を一つずつ降ろした。乱暴に奪う者はいない。QRを確認し、正しい保管場所へ戻す。

「商売を邪魔した損害を請求するぞ」

千帆は虚偽表示されたページを指した。

「請求先は、あなたが名前を使った農家全員になると思います」

最後の米袋が倉庫へ戻る。

正規整理券を持つ家族へ一袋目が渡され、QR画面に本当の生産者名が表示された瞬間、大雅が作った偽の産地欄だけが空白になり、棚田の新米は一粒も転売トラックへ残らなかった。