昇降口の猫
豪雨のせいで、昇降口の軒下に猫が入り込んでいた。
灰色で、片耳が少し欠けている。学校の裏でよく見かける猫だが、人には近づかない。今日は濡れすぎて逃げる気力もないらしく、靴箱の下で小さく震えていた。
私がしゃがむと、反対側から同じクラスの彼もしゃがんだ。
授業中はいつも寝ていて、先生に当てられると不機嫌そうに答える人。動物を助けるようには見えなかった。
「触ると逃げる」
彼が言った。
「じゃあどうするの」
「囲う」
彼は自分の傘を横向きに開き、風が吹き込む側へ置いた。私も傘を反対側へ立てた。二本の傘で、小さな屋根付きの部屋ができた。
猫は警戒しながら、その真ん中へ移動した。
「詳しいね」
「家に七匹いる」
「七匹?」
「拾ったのが増えた」
「拾いすぎでしょ」
「見つけるほうが悪い」
初めて聞く長い返事だった。
私は鞄から昼に残したパンを出したが、彼に止められた。
「味ついてるのはだめ」
「じゃあ何ならいい?」
「水」
ペットボトルの蓋に水を入れると、猫が少しずつ舐めた。彼は濡れた制服の裾を気にせず、床へ膝をついて見守っていた。
雨の匂いに混じって、湿った毛の匂いがした。
「学校では、猫好きって言わないの?」
「言う必要ない」
「今、私に言った」
「見られたから」
猫がくしゃみをした。二人で同時に笑った。
しばらくして雨が弱まり、猫は傘の隙間から外へ出た。振り返りもせず、植え込みの向こうへ消える。
彼は傘を閉じ、いつもの無表情に戻った。
「今日のこと、言わないで」
「七匹のこと?」
「全部」
「条件がある」
「何」
「今度、写真見せて」
彼は面倒そうに眉を寄せ、それからスマホを取り出した。
画面には、布団の上で七匹の猫に埋もれて眠る彼がいた。学校で見る顔よりずっと幼い。
「これ、送って」
「絶対やだ」
断りながらも、彼は次の写真へ指を滑らせた。
外ではまだ小雨が降っていた。帰るための傘は二本とも手元に戻ったのに、私たちは昇降口から動かず、七匹分の名前を一つずつ教えてもらった。