星一つのあと

壬生谷葉月の評価面談は、アプリストアに並ぶ星一つのレビューから始まった。

決済アプリの運用担当になって十か月。先月の更新後、「支払いに失敗したうえ評価を求められた」という苦情が急増し、担当機能の評価は大きく下がった。星一つの文面には、二重請求を心配する人や、レジ前で画面が止まった人の焦りが並んでいた。

「レビュー対策が遅い。返信文をもっと早く出していれば、ここまで荒れなかった」

部長は広報への異動を示唆した。葉月は返事をせず、今朝再現した画面を出した。正常な支払いを百回試しても評価依頼は一度しか出ず、失敗させた十回では十回すべて出た。返信速度では説明できない偏りだった。

支払い成功時に出るはずの評価依頼が、失敗画面の直後に表示されている。後輩が書いた処理を確認すると、成功と失敗の両方が同じ〈取引終了〉というイベント名を使っていた。評価依頼側は、その違いを見ずに反応していた。

「レビューを書いた人が怒りっぽいのではなく、怒っている瞬間だけこちらが声をかけています」

葉月は、後輩のコードを原因とは書かなかった。仕様書にイベントの区別がなく、テスト項目にも失敗後の遷移がなかったからだ。朝のうちにイベント名を分け、失敗時は問い合わせ導線だけを出す修正版を用意した。テスト項目には、通信切断、残高不足、店舗側取消しの三経路も追加した。後輩と二人で、星が出ない失敗画面を最後まで確かめた。後輩には、レビュー返信より再現手順を先に残すよう頼んだ。

部長は「広報なら文章力を生かせる」ともう一度言った。

葉月は異動票を見た。傷ついた評判を言葉でなだめる仕事も必要だ。しかし、自分が選びたいのは、星を付けられる前の画面を直す仕事だった。

評価表の希望職種を〈プロダクト運用〉から〈プロダクト品質〉へ書き換える。次期目標には、失敗経路のテスト率と、同じ問い合わせの再発数を置いた。

修正版の公開ボタンと異動申請の送信ボタンを、葉月は続けて押した。