最後の四コマ
「三秒あれば、どんな顔でも作れる」
高校時代、鳥居柊介は写真シール機のカウントダウンが始まるたびそう言った。変顔、白目、頬を膨らませた顔。仁科詩乃が勇気を出して《好き》と書いたフレームでも、柊介は大げさに驚いた顔を作った。
詩乃は笑われたのだと思い、その写真を一枚も受け取らずに帰った。翌春、柊介は県外の大学へ進み、二人の連絡は途切れた。
十年後、地元のゲームセンターが閉店すると聞き、詩乃は最後の日に立ち寄った。奥の写真シール機だけが、古い装飾のまま残っている。
カーテンから出てきたのは柊介だった。
「一人で撮ってたの?」
「練習。三秒じゃ顔が間に合わなくなった」
気まずさを笑いに変えるところは変わらない。店員に「最後の一組、どうぞ」と促され、二人は狭い箱へ入った。
一枚目は距離が空いた。
二枚目は同時に昔の変顔をした。
三枚目のカウントが始まる直前、柊介がポケットから古い写真を出した。詩乃が《好き》と書いた、あの日の一枚だった。
裏には、柊介の字で《俺も》とある。
「書いたけど、渡せなかった。詩乃が帰ったあと、全部持って帰った」
最後のカウントが三、二、一と減る。詩乃が顔を作る前に、柊介の手がそっと触れた。逃げる余地を残す弱い触れ方だったから、詩乃のほうから指を絡める。
フラッシュが光る。
画面に映った二人は、カメラではなく互いを見ていた。
落書き画面で、柊介は来月の日付を書き込んだ。隣町に新しくできる写真館の開店日だという。詩乃はその下へ《詩乃と柊介、続き》と書き、スマホにも同じ予定を登録した。
ゆっくり機械から吐き出された四コマを、今度は一枚ずつ分ける。柊介が手を離そうとすると、詩乃は写真ごと彼の指をつかんだ。
「三秒で、どんな顔でも作れるんでしょ」
「今日は無理だった」
最後の一枚の二人は、幼なじみに戻る顔を作れていなかった。
作れなかったからこそ、その写真は十年前の返事ではなく、次に並んで撮る日の約束になった。