期限は明日まで

若菜は冷蔵庫の中から、賞味期限が明日までのものを全部出した。

絹ごし豆腐、ちくわ、開封済みのキムチ、プレーンヨーグルト。食卓に並べると、福袋というより事情聴取だった。

給料日まで四日。スーパーへ行けば、必要なもの以外も目に入る。今日は買い物をしないと決め、あるもので夕飯を作る。そう宣言したのは自分なのに、並んだ食材を見て早くも帰りたくなった。ここが自宅なのに。

検索窓に「豆腐 ちくわ キムチ」と入力すると、候補に「簡単」「節約」「大量消費」が出た。みんな同じような夜を過ごしているらしい。

フライパンにごま油を少しだけ垂らし、ちくわを炒める。豆腐を手で崩して入れ、キムチをのせた。水分が出て、炒め物なのか煮物なのか分からなくなる。卵があればまとまるのに、朝食で最後の一個を使ってしまった。

若菜は鍋肌に醤油を回した。味見をすると、しょっぱい。水を足すと薄い。もう一度キムチを入れると、さっきより赤くなっただけだった。

料理がうまくいかない日は、自分の管理能力まで否定された気になる。食材を期限内に使えないことも、安いものだけで献立を組めないことも、一人暮らしの試験に落ちているようだ。

火を止め、深い器によそう。見た目は赤い豆腐の沼だった。

ヨーグルトには、台所の棚で固まりかけていた蜂蜜をかけた。容器を逆さにして待つと、最後の一筋がゆっくり落ちた。

食卓で赤い沼を食べる。二口目には、しょっぱさにも慣れた。ちくわは弾力があり、豆腐は熱い。少なくとも食べられない味ではない。

若菜は半分を保存容器へ移した。明日の昼に持っていくかどうかは、明日の自分が決めればいい。嫌なら捨ててもいい。

賞味期限は、暮らしの締め切りではない。全部を最適に使い切れなくても、今夜一食分になった。

ヨーグルトを最後に食べると、蜂蜜の甘さだけは迷いがなかった。

保存容器のふたに日付を書こうとして、若菜はペンを置いた。明日食べるかもしれないし、食べないかもしれない。そこまで決めて今夜を終えなくてもいい。

洗い物はフライパンだけ済ませ、器は水につけた。食材を救った自分まで、完璧に片づけなくてよかった。