本人一個口

物流倉庫の夜勤を終えた笹生直哉は、始発を待つため駅のベンチで眠った。目を覚ますと、駅名標が「無番」に変わっていた。

ホームには古い整理券発行機があり、ベンチの上に白い紙片が一枚置かれている。表には何も印字されていない。

社内の怪談チャットで「無番駅」を検索すると、退職者の投稿が見つかった。

《ベンチの整理券を裏返してはいけない。裏面を見た人は、乗客ではなく荷物として扱われる》

直哉は倉庫でバーコードを読む仕事をしている。整理券が無印刷なら機械故障の証拠になると思った。手袋をした指で持ち上げ、一度だけ裏返した。

《取扱品 笹生直哉 一個

 集荷場所 無番駅

 届け先 実家》

実家の住所まで正確だった。配送指定日は今日、時間帯は「生まれた時刻」。伝票番号は直哉のマイナンバーと同じ十二桁だった。

紙を放すと、ホームのスピーカーが鳴った。

『お荷物をお持ちのお客様は、列車から離れてお待ちください』

無人の貨物列車が通過し、風圧で目を閉じた。次に開けると、直哉はいつもの駅のベンチにいた。整理券は消えている。

帰宅して眠り、昼に宅配アプリの通知で起こされた。

《集荷を受け付けました》

依頼した覚えはない。品名は「本人」、個数は一。キャンセルボタンは灰色で、送り先は郷里の母になっていた。

玄関のチャイムが鳴った。モニターには制服姿の配達員が立ち、空の大きな段ボール箱を抱えている。

「笹生様、集荷に参りました」

直哉は応答しなかった。配達員は何度か伝票を見たあと、箱を玄関前へ置いて去った。

十分後、アプリが更新された。

《集荷完了》

直哉はまだ部屋にいる。それなのに母からメッセージが届いた。

《荷物、もう着いたよ。ずいぶん大きい箱だけど、何を送ったの?》

続けて音声メッセージが来た。箱の中から、直哉の声で「開けて」と繰り返している。

直哉が再生を止めると、玄関前の段ボール箱から同じ声がした。

宅配アプリの配達状況は、最後の行だけ点滅していた。

《ご本人を置き配しました》