本命は粉々
手作りの巨大なハートは、下駄箱へ入れる前に割れた。
二月十四日の朝。包装した箱を抱えて走ったのが悪かった。昇降口の段差でつまずき、箱の中から鈍い音がした。
ふたを開けると、昨日三時間かけて作ったチョコは十七個の破片になっていた。
「終わった」
しゃがみ込んでいると、背後から本人の声がした。
「何が?」
私は反射的に箱へ覆いかぶさった。
「見ないで」
「そこ、僕の下駄箱」
「今だけ違う」
彼は困った顔で隣にしゃがんだ。隠しきれず、割れたハートが見えた。
「落とした?」
「事故」
「食べられる?」
「形が大事なの」
真ん中へ『好き』と白いチョコで書いていた。今は『好』と『き』が別々の破片に分かれ、『す』は粉になっている。
彼は箱の隅から一片つまんだ。
「これ、何て書いてあったの」
「読めないならいい」
「好、き」
「読めてるじゃん」
耳が熱くなった。
彼は『好』の破片を口へ入れた。
「勝手に食べないで」
「僕の下駄箱に入れる予定だったんでしょ」
「予定は中止」
「じゃあ今、直接もらった」
彼は『き』も食べた。
告白の返事を聞く前に、チャイムが鳴った。生徒が次々に昇降口へ入ってくる。割れたチョコを広げたままでは目立つ。
彼は箱を持ち上げ、私の手を引いた。
校舎裏のベンチへ逃げ、二人で破片を食べた。大きすぎて、朝だけでは終わらない。昼休みにも続き、放課後には友人たちまで加わった。
「本命チョコをみんなで食べるの、どうなの」
私が小声で言うと、彼は最後の小さな欠片を隠した。
「これは僕の分」
「どの部分?」
「『す』だったところ」
粉にしか見えなかった。
彼はそれを丁寧に紙へ包み、制服のポケットへ入れた。
「返事、まだ聞いてない」
私が言うと、彼は空になった箱を指した。
「全部食べた」
「味の感想じゃなくて」
「来年は一緒に作ろう。運ぶのは僕がやる」
それが返事だと分かるまで、少し時間がかかった。
翌年、ハートは半分の大きさにした。それでも帰り道で一度落とした。
割れなかったのは、二人で箱を持っていたからだった。