朽ち木に生えた夕食
死霊術師カミラは、戦場の死者を兵士として起こせという命令を拒み、国境の森へ捨てられた。
森には畑に向く日当たりも、立派な家もなかった。
代わりに倒木がいくらでもあったので、彼女は茸の菌を打ち込み、毎朝湿り気を確かめた。
菌を打ってから、何か月も何も起きなかった。森の者には失敗だと笑われ、カミラ自身も印を付けた木を取り違えたかと思った。それでも乾く日は水を掛け、冷える夜は落ち葉を厚く積んだ。
雨上がりの朝、最初の一本が朽ち木から顔を出した。
傘は掌ほどで、茶色く艶めき、縁に小さな水滴を並べている。
カミラは骨の従者を呼びかけ、やめた。
これは自分の手で採りたかった。
根元をつまんで、ゆっくり回す。ぽくり、と軽い感触で茸が外れた。土ではなく、濡れた木と森の匂いがした。
空いた跡を指で撫でると、すぐ隣に針の先ほどの芽が二つあった。一本を採って終わりではない。次の夕食がもう静かに準備されている。その事実に、死者の軍勢より心強いものを感じた。
そのとき、黒い蝶が何百匹も集まり、一通の命令書へ姿を変えた。
『東部戦線壊滅。死霊軍を編成し、直ちに帰還せよ』
署名は、彼女を「臆病者」と罵った将軍のものだった。
カミラは命令書を読まず、茸を包む布の下へ敷いた。
紙が湿るかもしれないが、戦場よりはましだろう。
小屋へ戻り、茸を厚く切る。
鉄鍋へ山羊乳のバターを落とすと、黄金の泡が立った。茸を並べた瞬間、じゅうう、と森の静けさを破る音がする。
塩と黒胡椒。縁が焦げるまで待つ。
香りにつられ、納屋の骨馬が窓から頭蓋骨をのぞかせた。
「あなたは食べられないでしょう」
骨馬はかたかた歯を鳴らした。
「見るだけならどうぞ」
焼けた茸をパンへ乗せる。
噛むと表面は香ばしく、中から熱い汁があふれた。肉より柔らかく、薬草より深い味がする。
カミラは思わず目を閉じた。命を操らなくても、朽ちた木から夕食は生まれるのだ。
黒い蝶が一匹だけ紙から剥がれ、返答を催促するように飛んだ。
カミラは鍋へ二切れ目を置く。
「死者は起こさない。夕食なら、もう一度焼くけれど」
じゅう、と再び音が上がった。
命令書の文字は暗がりへ沈み、初収穫の香りだけが、静かな森を生きているものの場所に変えていった。