欠席理由は書かない

風香は同窓会の案内を三週間、未回答のままにしていた。

出席者一覧には、起業した人、医師になった人、雑誌で名前を見かける人が並ぶ。近況欄も公開されていて、風香は毎晩そこを読んだ。自分の職業欄に「契約社員」と書くと、文字だけが薄く見える気がした。

欠席するなら理由が必要だと思った。出張、親戚の行事、体調不良。どれも嘘になる。正直に「比べられるのが怖い」と書くわけにもいかない。風香は長い説明を下書きしては消した。

締切日の夜、幹事から個別のメッセージが届いた。

〈人数だけ知りたいので、今日中に丸をお願いします〉

それだけだった。来てほしいとも、近況を聞かせてとも書いていない。

同窓会で聞かれそうな質問も、風香はすでにノートへ書いていた。仕事は楽しいか、今後どうするのか、誰かと暮らしているのか。答えの横には、相手が自分より順調だった場合の笑い方まで考えてある。会う前から、全員を審査員に仕立て、自分を不合格にしていた。その準備に疲れたことも、欠席したい理由の一つだった。

風香は回答画面を開いた。出席の丸へ指を置き、止める。会いたい人は一人いる。でも、今の自分を採点される場所へ行く力はなかった。欠席することまで、立派な事情で飾ろうとしていたのだと気づく。

「欠席」に丸をつけ、理由欄を空白のまま送信した。

送った直後、無責任に見えないか、心配されないか、別の不安が湧いた。風香は幹事への謝罪文を打ち始める。三行目まで書いてから、全部消した。人数だけ知りたい、という言葉をそのまま受け取ることにする。

スマートフォンを机の引き出しへ入れ、コンビニで買った茶碗蒸しの蓋を開けた。温めすぎて縁に小さな泡が立っている。

同窓会の日、何をするかは決めていない。働くかもしれないし、眠っているかもしれない。ただ今夜は、欠席する自分を、誰かより劣っている証拠に仕立てるのをやめた。

理由欄は空白のまま、送信済みの表示だけが静かに残った。