歯のない鍵と処刑台
夜明け、オズロは処刑台へ上げられた。
罪状は領主暗殺未遂。証拠は彼の鞄から出た毒瓶だけ。実際には、領主の弟が農民の土地を奪う計画へ反対した翌日に仕組まれたものだった。
首輪の鎖が杭へつながれている。広場には、見せしめに集められた村人たち。誰も声を上げられない。
執行人が斧を持ち上げたとき、オズロの視界へ《囚人職・初回十連》が現れた。牢で覚醒して以来、開く暇すらなかったものだ。
彼は十連を一度だけ回す。
黒パン、毛布、木杯など九品。最後に、歯の刻まれていない銀色の鍵が落ちた。
《鍵/説明:存在してはならない錠を開けます》
オズロは鍵を首輪へ差した。鍵穴はない。それでも、かちり、と音がした。
彼の首輪が外れる。
同時に広場の端、兵舎の地下、領主館の奥から、無数の解錠音が重なった。借金を捏造されて拘束された農民の枷、証言を拒んだ書記官の牢、そして領主の弟が証拠を隠した金庫まで開いていく。
風にあおられ、金庫から書類が舞った。
『毒瓶購入者』『偽証への報酬』『没収予定地一覧』
一枚が裁判官の足元へ貼りつく。もう一枚は領主本人の手に渡った。
執行人は斧を下ろし、オズロへ刃ではなく柄を差し出した。鎖を断つための道具として。
「処刑は中止だ!」
領主の声が広場へ響く。
オズロは処刑台を降りた。村人たちは道を開けるのではなく、彼の後ろへ並んだ。これから返してもらう土地の証人になるためだ。
歯のない鍵が朝日を反射する。
開いた牢から、杖をついた書記官が広場へ出てきた。彼は毒瓶を鞄へ入れた男の名と、命じた者の名を、震えずに読み上げる。続いて解放された農民たちが、自分に押された偽の拇印を示した。証拠は一枚ではない。鍵が外した数だけ、真実が歩いてきた。裁判官は処刑台の机を、そのまま再審の記録台へ変えた。
領主はオズロへ衛兵長の地位を差し出したが、彼は先に公開裁判を求めた。自分だけ助かれば終わりではない。開いた牢へ戻される者が一人もいないと決まるまで、鍵を役所へ預けないと告げる。広場の村人たちは、その条件に拍手した。
《EX級〈不当拘束解除鍵〉/対象:錠・契約・身分・恐怖》