死者だけが描く地図

 岳人は十九度目の落とし穴へ身を投げた。

 骨の砕ける感覚の直後、入口の祭壇で息を吹き返す。体力も装備も元通り。ただし地図には、死んだ地点だけが赤い点として残った。

【冥府迷宮】

【死亡地点は全プレイヤーの地図へ永久記録される】

 復活できても、死は軽くなかった。落下の浮遊感も、毒が喉を焼く時間も本物に近い。仲間は印を付けるために一、二度死んだだけで嫌になり、岳人へ役目を押しつけた。彼は冗談を言って穴へ落ち続けたが、十九個目の点を置くころには、自分の悲鳴が他人のものに聞こえていた。

「また自殺かよ、ガクト」

 仲間は呆れていた。だが壁も通路も表示されない迷宮で、赤い点だけが唯一の目印だった。岳人は罠へ死体を置くように点を増やし、安全な隙間を推測して進んだ。

 最深部近くで、奇妙な並びに気づく。自分の十九個より古い点が、広間の床へ規則正しく並んでいた。縦線、横線、曲線。偶然の死亡跡ではない。

 点を選ぶと、古い記録時刻が表示された。十三年前、正式サービス開始前の日付。しかも一人が死んだのではなく、七人が交代しながら同じ線を描いている。復活できると信じ、痛みを分担し、それでも外へ届く保証のない文字を完成させようとしたのだ。

 上から見れば、文字になる。

【S O S】

「先行組のいたずらだろ」

 仲間は宝箱へ急いだ。だがSOSの最後のSだけ、右下が欠けている。岳人はその場所へ立つ。床には罠も敵もない。

「死ねる場所じゃないぞ」

「だから、誰も完成できなかった」

 岳人は短剣を自分の胸へ向けた。ゲーム内の死は痛い。それでも復活する。そう信じて刃を押し込む。

 入口へ戻ると、地図の文字が完成していた。迷宮全体が震え、宝箱のある最深部ではなく、SOSの中央に階段が現れる。

 地下には七つの眠るアバターがいた。名前はすべて、正式サービス前に消えたベータテスターのものだった。

 一人が目を開き、かすれた声で言う。

「地図、読んでくれたんだね」

【メインクエスト《冥府の財宝》未達成】

【隠しクエスト《ここにいた》達成】

【十三年前に隔離されたベータ領域を検出】

【生存意識データ七名を、現行サーバーへ救出します】